【スグルのリアル体験 11 】〜 校舎の営繕と驚きの光景

小学校の用務員として働き始めたのは、どこか懐かしさを求めていたからかもしれない。

子どもたちが走り回る姿、運動場で響く笑い声、教室から聞こえる先生の授業の声

すべてが、俺が小学生だった頃を思い出させてくれる。

 

クラスメイトと遊んだり、時には喧嘩したりした日々。無邪気で、ただ毎日を全力で駆け抜けていたあの頃。

だが大人になった今、学校にはその頃には見えなかった問題が山積みだということも知った。

 

三木先生は俺が小学生のとき、隣のクラスを担任していた先生だ。

再会した時、「最近、学級崩壊の問題が増えているんだ」とため息混じりに話してくれた。

その言葉が妙に頭に残った。

 

どうしてそんなことが起きるのか?子どもたちがどうしてそんな状態になるのか?

校舎内の営繕作業をしながら、俺は自然と教室の中を覗くようになった。

壊れた机を直したり、ペンキを塗ったりする作業の合間に、子どもたちの様子を見て回る。

ほとんどのクラスでは、元気な子どもたちが「スグル先生、ありがとう!」と声をかけてくれる。

そんな時はいつも、俺の心が温かくなる。

 

しかし、その日、ある教室の前を通りかかったとき、状況は違った。

授業中にもかかわらず、ひとりの女の子が教室から飛び出してきたのだ。

俺は驚いて「どうした?」と声をかけるが、彼女は答えず涙をこらえて走り去ってしまった。

その姿に胸がざわつき、教室の中を覗いてみた。

中では、先生が教壇で話しているが、子どもたちは誰一人として先生の方を見ておらず、話を聞いていない。

おしゃべりする子、窓の外を眺める子、教科書で遊ぶ子。

俺は足がすくんだ。この光景が、三木先生が話していた「学級崩壊」なのだろうか?

 

ふと視線を感じて振り返ると、教室を飛び出したあの女の子が、廊下の隅で膝を抱えて泣いていた。

俺はそっと近づき、静かに座り込む。「大丈夫か?」と声をかけると、彼女は小さな声で

「もう、学校に来たくない」と漏らした。

その言葉に心が痛んだ。

「どうして?」と聞くと、彼女は少しずつ話し始めた。

友達に無視されていること、先生にうまく気持ちを伝えられないこと、授業がわからなくても聞けないこと。

彼女は、小さな体に抱えきれないほどの苦しみを抱えていた。

 

俺はただ「わかるよ」と言うことしかできなかった。でも、続けてこう言った。「でもさ、俺も子どもの頃、喧嘩ばっかりしてた。学校が嫌な日もあった。けど、今こうしてここにいる。だから、君も大丈夫。誰かがきっと気づいてくれる。

俺も、君のこと見てるから。」

彼女はしばらく黙っていたが、やがて涙を拭いて「ありがとう」と言った。

その一言で、俺の中にあった何かが溶けていくようだった。

 

翌日から、彼女は少しずつ笑顔を見せるようになった。クラスメイトと話している姿を見ると、俺の胸はほっとした。

それでも、教室の中で起きている問題がすべて解決したわけではない。

 

でも、俺にできるのは、壊れたものを直すだけじゃない。

子どもたちの心に寄り添うこともまた、俺の仕事なんだと思った。

学校の廊下を歩きながら、俺は自分に言い聞かせる。

「大丈夫、俺はできる!」学校の子どもたちだけじゃない。

俺たち大人も、もっと支え合えるはずだ。そんな想いを胸に、俺はまた工具箱を手に取った。