【スグルのリアル体験 12】〜心で動く

ある教室を覗いてみると、1人の男の子が教壇に立つ先生の前の机の上で

〝あぐらをかき〟先生に悪態をついているではないか!

俺は思わず目を疑った。

そのとき、別の子どもが教室から飛び出した。

 

児童を追いかけ、話をして、なんとか教室に戻した。

そして、すぐに廊下を走って三木先生と秋山先生に報告に向かった。

 

しかし、その行動が正しかったのか、ずっと迷っていた。俺は〝学校用務員〟だ。

先生でもないのに、こんなことをしてよかったのか?

余計なことをしているのではないか?そんな思いが頭をぐるぐる回っていた。

だが、三木先生と秋山先生は、俺の迷いを一瞬で吹き飛ばすような言葉をくれた。

 

三木先生は静かに言った。

「スグル君、あなたは教壇に立って授業を教えることはできない。

でも、この学校の職員として、子どもたちを育む大切な存在なんだよ。」

俺はその言葉に驚き、思わず息を呑んだ。

三木先生は続けて言った。

「1年生が学校探検をするとき、4年生が仕事紹介をするとき、6年生が立つ鳥として巣立つときだけじゃない、

あなたが普段ゴミを処理したり、壊れた物を直したりしている姿を子どもたちは

見ているんです。子どもたちにとって、スグル君は学校の一部そのものなんです。」

 

そのとき初めて、俺のしている日々の仕事が、ただの雑用ではなく、子どもたちにとって意味のあることだと気づかされた。

そして秋山先生が、俺にこう言った。

「スグル君、あの子どもを教室に戻したのも、私達に報告したのも、迷わずやったのはあなただろう?

あの子にとって、今のあなたは“ヒーロー”なんだよ。困っている子どもを助けるのに、肩書なんて関係ないんだ。

心で動ける人が、本当に子どもたちを救える。」

俺はその言葉に、胸が熱くなった。

 

「用務員だから」なんて関係ない。秋山先生はそう教えてくれた。俺が迷いながらも行動したことが、子どもたちのためになったのだと。

その後、秋山先生はさらにこう続けた。

「スグル君、この学校にはたくさんの先生がいる。でも、みんなが“子どもたちを守る”という気持ちがあっても、直ぐに動けるわけじゃない。

あなたみたいに、子どもを思ってとっさに動ける人がいるから、この学校は成り立っているんだよ。」

俺はその言葉に、涙が出そうになった。

迷っていた気持ちはすっかり晴れ、俺は胸を張って学校の一員でいることの意味を理解した。