【スグルのリアル体験16】〜寄り添う力が未来を変える

ある日、ふと目に留まった子どもがいた。

小学4年生の男の子。彼は母子家庭で、お母さんは働いている様子もなく、

その子の食事は、毎日の給食1食だけ。そんな生活が現実にあるのかと、俺は心が痛んだ。

 

俺自身、貧しい環境で育ったが、それでもこんな状況を目の当たりにしたことはなかった。

 

彼のことを知ったとき、胸の奥にある何かが動き始めた。俺は思い出していた。

小学生の頃、貧しい生活を送っていた自分ことを。あの頃、ご近所の人たちが俺に食事を与え、命をつないでくれた。

そのおかげで、俺はどうにか生きていけた。あの頃の俺にとって、隣のお姉さんと遊ぶ時間は心の支えだった。

 

何もかもが苦しかったけれど、その「ささやかな支え」が俺を救ってくれたんだ。

今、目の前にいるその子も、どうしようもない状況の中で、必死に生きている。俺に何かできることはないのか。

そう考え、俺は決めた。自分の時間を彼のために使おうと。

 

仕事の合間、俺はその子と話すようになった。

休み時間には、一緒に遊んだ。最初は少しぎこちなかったが、次第に彼の顔に笑顔が出てきた。

また、彼以外の学校になかなか学校に馴染めない子どもたちともできるだけ時間を作り、遊んだり、話をしたりした。

これが俺にできることだと思った。何も大層なことじゃない。ただ、寄り添う。それだけだ。

 

気づけば、俺は他の子どもたちとも関わる時間が増えていった。

彼らが笑うたびに、俺の心もあたたかくなる。「ありがとう」と言われるたびに、泣きそうになるくらい嬉しかった。

そんなある日、三木先生から言われた。「用務員の仕事と子どもとの関わりを両立する方法を考えてみよう」と。

 

しかし、学校が分校することになり、俺と秋山先生は異動することになった。

その知らせに子どもたちが泣いてくれたとき、俺も涙を堪えられなかった。

あの子たちがこんなに俺を必要としてくれていたなんて。

 

異動の日、秋山先生が俺にこう言った。

「スグル君は、子どもたちの人生にずっと残る存在だよ。」

その言葉が、俺の胸を深く震わせた。

 

俺にできることは、ほんの小さなことだった。

でも、その小さな行動が、誰かの人生を少しでも明るくするのだと信じられるようになった。

これからも俺は、目の前の子どもたちのために、自分ができることを続けていこうと思った。