【スグルのリアル体験 19 】〜 仕事の誇り
- 2025/02/04
夏休みの静かな校内で、俺は先生たちとワックス作業を進めていた。
用務員として、この学校を清潔に保つこと、それが俺の仕事だ。
子どもたちが安心して過ごせる環境を作る。それが俺にとっての誇りでもある。
ワックス作業は、廊下や特別教室、職員室を終えて、ついに校長室の番になった。
そのとき、ある先生が放った言葉が空気を変えた。
「校長室は作業したくないんだよ…勝手にワックスの範囲を決めないでくれ!」
その言葉に一瞬手が止まった。他の先生たちもぎこちない沈黙を守っていた。
だが、俺は作業を再開した。この仕事に余計な感情を持ち込むのは違う。それが俺の考えだった。
心の中で自分に言い聞かせた。
「子どもを教育する環境の中で、先生同士の差別があってはいけないし、
会議での対立をこの場に持ち込むのもおかしい」
確固たる決意を胸に俺はモップを動かした。
床が次第に輝きを取り戻していくのを見て、どこか気持ちが落ち着いていくのを感じた。
この校長室も、子供たちにとって大切な場所。仕事の本質を見失うわけにはいかない。
作業が終わる頃には、日も暮れかけ、外からは蝉の声が響いていた。
俺の心の中にはわずかな達成感があった。
「これで、また始業式から子供たちが気持ちよく過ごせる」そう思った。
けれど、新学期が始まると、管理職と一部の先生たちの対立はますます激化していった。
会議の場では、意見がぶつかり合い、時には感情的な言葉が飛び交うこともあった。
その度に、校内の空気は重く、どこかぎこちないものになっていった。
そんな中、校長先生が俺を校長室に呼び出した。
「スグル先生、どう思いますか?」
突然の問いに、俺は少し考えてから答えた。
「正直に言いますと、どちらの立場にも完全には寄り添えません。
ただ、子どもたちのために何が一番いいのか、それだけを考えたいと思っています。」
校長先生はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。その目には疲れと迷いが見えた。
俺は、この学校に来てから自分の役割以上のことに巻き込まれてきた。
それでも、用務員として、そして一人の大人として、
子どもたちにとっての「安心できる場所」を守りたいという思いだけは揺るがなかった。
ある日のこと。登校してきた子どもたちが廊下を走り抜ける中、一人の女の子が俺に言った。
「スグル先生、いつもありがとう!床ピカピカで気持ちいい!」
その言葉に心が温かくなった。この小さな声が、俺にとって何よりの励ましだ。
どれだけ先生たち同士が対立していても、この子たちが元気で笑顔なら、それが俺の原動力になる。
夏休みも終わり、新学期が始まる。先生たちの間の対立はまだ続いているが、
俺は黙々と自分の仕事をこなしている。廊下を掃除していると、教室から聞こえる笑い声や元気な声。
それだけで、この学校の未来に希望を持つことができる。
俺にできることは小さいかもしれない。
それでも、この学校の一員として、この場所が子どもたちにとって「安心」と「希望」を与える場であるよう努力し続けたい。
「俺はここにいるんだ。子どもたちのために、今日も俺の仕事を全力でやろう」
改めてそう 決意した。