スグルのリアル体験 20 】〜 対話は解決の鍵

職員室の朝はいつも荒れていた。

職朝で校長と教頭に質問が飛び交い、それを皮切りに職員同士が言い合いを始める。

議論はヒートアップし、児童たちの朝の会にまで影響が出ることもしばしばだった。

 

昼の職員会議ではさらにひどい。校長と教頭、それに一部の職員が感情をぶつけ合い、話は堂々巡り。

終了時刻はいつも大幅に遅れ、夜7時を過ぎるのは当たり前。ひどいときには夜11時まで続くこともある。

 

みんな疲れ切って帰り、また翌朝には同じことの繰り返しだ。

 

そんな日々が続く中、悲劇が起きた。

一人の同僚が流産してしまったのだ。直接の原因が会議でのトラブルかは分からない。

でも、怒号や罵声が飛び交い、涙が流れる会議が彼女に与えたストレスは計り知れない。

彼女が静かに「ごめんなさい」と泣きながら退職届を差し出したとき、俺は何も言えなかった。

ただただ、自分の無力さが悔しかった。

 

このままではいけない。学校は、子どもたちの未来を育てる場所だ。

それが、職員同士の争いで壊れていくなんて許されるはずがない。

そう思った俺は、信頼する北里先生に相談した。彼はしっかりと俺の目を見て「覚悟を持ちなさい。

それがないなら動くべきじゃない」と言った。

 

その言葉に背中を押され、俺は校長先生に直接話すことを決意した。

 

校長室のドアをノックする手が震える。大きく息を吸い込み、勇気を振り絞って扉を開けた。

「どうしましたか?」と校長先生の重い声が聞こえた。そのプレッシャーに押されつつも、俺は切り出した。

 

「校長先生、このままじゃ学校が壊れます。」

 

校長は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに真剣な顔になった。

「詳しく聞かせてください」と促され、俺は職員室の現状、そして流産の件で自分が思うことを包み隠さず話した。

「ストレスで心を病む職員が増えています。このままでは子どもたちに悪影響を与えてしまう。

学校が、教育が崩壊します。」そう言い切ると、校長は深く黙り込んだ。

 

「確かに最近、職場の雰囲気が悪いことは感じています。でも、正直どう改善すればいいか分からない。

私達にも学校現場としての方針があります。」校長の正直な言葉に少し驚いた。

そして同時に、この人なら話が通じるかもしれないと思った。

 

その瞬間、少しだけ肩の荷が下りた気がした。

でも、本当に大変なのはこれからだ。学校全体を変えるには時間がかかる。

それでも、子どもたちの笑顔のために、俺は覚悟を決めた。

それからしばらく校長と二人で話しをした。

その姿を、北里先生は静かに見守ってくれていた。