【スグルのリアル体験 26 】〜 変わる勇気と挑戦

次の異動先は中学校に赴任が決まった。

正直、不安しかなかった。用務員として働くこと自体には慣れていたが、「中学校」という場所には特別な引っかかりがあった。

 

なぜなら俺自身、学生時代に先生たちから目をつけられていた問題児だったからだ。

 

制服にはタバコの匂いが染みつき、近隣の学校に喧嘩を売りに行く。時には学校をサボって、

父親と競艇場に足を運ぶ。そんな荒れた生活を送っていた俺には、今でも中学校という場所は、

かつての黒歴史が蘇る場所に思えた。

 

ある時、バイクが盗まれ、電柱に激突した事件が起きた時も、真っ先に疑われたのは俺だった。

「お前がやったんだろ?」と職員室に呼び出され、

先生たちに責められたあの時の悔しさや孤独感は、今でも忘れられない。

 

そんな俺が、果たして中学校でちゃんと働けるのか――。胸の奥に湧き上がる不安を抱えたまま、初日を迎えた。

 

新しい学校に到着し、様子をうかがっていると、信じられない光景が目に飛び込んできた。

そこには、俺が中学1年生のときの担任だった先生がいたのだ。

一瞬で過去の記憶がよみがえり、居心地の悪さを感じた俺は、できるだけその先生を避けるようにしていた。

 

だが、先生はそんな俺を見つけるたび、わざわざ用務員室や事務室に顔を出してきた。

手にはいつもお菓子を持っていて、昔話や学校での出来事を何気なく話しかけてくれる。

その優しさに、次第に少しずつ心を開くようになっていた。

 

ある日、先生がこんなことを言ってきた。

「毎朝、生徒の登校指導をしてるんだけど。一緒にやらない?」

俺は一瞬、ためらった。あの頃の自分みたいな生徒たちと向き合う自信がなかったからだ。

 

でも先生の目は真剣で、逃げてはいけない気がして、「やってみます」と答えた。

次の日、正門に立った俺は、目の前に広がる光景に戸惑った。

 

制服を着崩し、ふざけながら登校してくる生徒たち。

その中には、どこか不機嫌そうな顔をした生徒や、うつむき加減で歩いている生徒もいた。

 

みんなそれぞれの事情を抱えているのだろう。そんな中、一人の生徒が目に留まった。

 

鋭い目つき、ポケットから見え隠れするタバコの箱。

その姿が、10代だった俺と重なり、胸がざわついた。

 

隣に立っていた先生が声をかけてきた。

「どうだ?何か感じるものはあるか?」

俺は正直に答えた。「あの生徒を見ていると、昔の自分を思い出します。なんか胸がざわざわして…。」

先生は笑ってこう言った。「それでいいんだよ。自分が通ってきた道だからこそ、見えるものがある。

それを無駄にしないように。スグル君なら、あの子たちに寄り添えるはずだよ。」

その言葉に、少しだけ自信が湧いた気がした。

 

毎朝、正門で生徒たちを見送る日々が始まった。

最初は目を合わせるのも嫌がっていた生徒たちも、少しずつ挨拶を返してくれるようになった。

 

あの鋭い目をしていた生徒にも、何度か声をかけた。

 

最初は反抗的な態度を取っていたが、ある日、ポツリと「…タバコ、やめたいっす」と言った。その一言が、心の奥に響いた。

俺が中学生だった頃、誰かがこんな風に向き合ってくれたら、もっと違う道を歩んでいたのだろうか。

 

ある日、担任だった先生がこう聞いてきた。「この学校、どう?少しは慣れた?」

俺は頷きながら、「最初は正直、不安しかなかったです。でも、今はここで自分にできることを見つけてみたいと思っています」と答えた。

 

先生は微笑みながら、「スグル君の経験が、今の生徒たちにとって一番の力になるね。」と言った。

その言葉に背中を押されるように、俺は強く拳を握りしめた。

ここで、自分の過去を無駄にしない生き方を見つけよう。そう心に決めた。