【スグルのリアル体験 30 】〜 不器用な優しさ

ある日の放課後、俺は〝ボス〟と〝りょう君〟にラーメンを食べに行こうと誘った。

「マジっすか?」

最初は少し驚いたような顔をしていたが、2人とも「悪ぃな」と照れくさそうに言いながらも、俺についてきた。

 

ラーメン屋に入ると、店内は湯気で少し曇っていて、カウンター越しに店主が威勢よく注文を取っていた。

「先生、こんなとこ来るんすね。」

〝りょう君〟がニヤッとしながら言う。

俺は「たまにはな。ラーメンぐらい奢ってやるよ」と笑った。

 

2人は嬉しそうに椅子に座り、メニューをじっと眺めていた。

「ボス、最近大人しいっすね。」

〝りょう君〟が軽い調子で言ったが、〝ボス〟はメニューから目を離さず、ポツリと答えた。

「別に……」

その声はどこか元気がなかった。俺は何も言わず、ラーメンが来るのを待った。

沈黙の中、〝ボス〟がふと口を開いた。

 

「……俺、母ちゃんに悪いと思ってるんすよ。」

俺も〝りょう君〟も驚いて箸を持つ手を止めた。

「夜遅くまで働いてんのに、俺は好き勝手遊んで……家でもあんま話さねぇし……。」

〝りょう君〟が珍しく真面目な顔になり、小さな声で言った。

「まぁ……なんつーか、わかるけどな。」

〝ボス〟は湯気が立ち上るラーメンをぼんやりと見つめながら、さらに続けた。

 

「家帰っても誰もいねぇし……静かすぎて落ち着かねぇ。だから、外にいた方が楽でさ。」

俺は彼の横顔を見ながら、ゆっくりと答えた。

「そっか。寂しいよな、家に帰っても話す相手がいないって。」

「……まぁ。」

 

そこに、熱々のラーメンが運ばれてきた。

「いただきます。」

〝ボス〟はスープを一口すすり、ほっとした表情を浮かべた。

「うめぇ……。」

その言葉を聞いて、俺は少し安心した。

 

ラーメンを食べながら、俺は少しずつ本題に入った。

「お前さ、怒りのやり場がわかんなくて、椅子ぶっ壊したんだろ?」

〝ボス〟は箸を止め、バツが悪そうにしながらも、小さく頷いた。

「……かもな。」

「でもさ、今日、修理した椅子、ちゃんと座れたよな?」

〝ボス〟は黙ってうなずく。

 

「ぶっ壊すのは簡単だけど、直すのは大変だったろ?」

〝りょう君〟が笑いながら、「マジでネジ多すぎだろ、あれ」と付け加えた。

〝ボス〟もクスッと笑い、「まぁ……やればなんとかなるもんですね」と小さくつぶやいた。

俺は、静かに頷いた。

「そうだ。ぶっ壊すより、直す方が大変。でも、それをやったお前ら、ちょっとは誇っていいんじゃねぇの?」

〝ボス〟はレンゲを置き、俺の方を見つめた。

「……先生、俺……これからどうすればいいすかね?」

俺は彼がその言葉を口にするのを待っていた。

 

「まずは、できることからでいいんだよ。家にいる時間、ちょっとでも増やしてみるとかさ。母ちゃん、きっとお前と話したいって思ってるぞ。」

〝ボス〟は深いため息をつきながら、ラーメンをすすった。

「……そうっすね。ちょっと、やってみるわ。」

その言葉を聞いて、俺の胸がじんわりと熱くなった。

「よし、それでいい。腹いっぱい食って、明日からまた頑張ろうぜ。」

「……はい。」

 

こうして、俺たちのラーメン屋での時間は、ただの食事以上の意味を持っていた。

帰り道、〝ボス〟は少し前を歩きながら、小さな声でつぶやいた。

「先生、サンキューな。」

俺は彼の背中を見つめながら、静かにガッツポーズをした。

(まだまだこれからだ。ゆっくりでいい。関わり続けることが大事なんだ。)

俺はこれからも、〝ボス〟や〝りょう君〟と向き合っていく。あいつらの未来が、少しでも明るくなるように