【スグルのリアル体験34】〜 冷たい廊下で、〝ボス〟と向き合う

「私がスグル先生の残りの仕事をするので、2階へ行ってください。」

教務主任の先生がそう言ったとき、俺は一瞬戸惑った。

2階? 何があるんだ?

 

けれど、その表情は真剣だった。俺は、足早に階段を駆け上がった。

2階の廊下に着くと、目の前に 〝ボス〟 の姿があった。

 

数名の先生たちに取り囲まれ、眉をひそめ、肩を怒らせている。

俺はすぐに〝ボス〟の元へ向かい、先生たちに「俺に少し時間をください」と伝えた。

先生たちは戸惑いながらも、俺の言葉を信じてくれたのか、少しずつその場を離れていった。

〝ボス〟と二人になり、俺はゆっくりと彼の隣に座った。

 

「何があった?」

〝ボス〟はしばらく口を開かなかった。けれど、少ししてからポツリと話し始めた。

「……他の生徒とちょっと揉めててさ。そしたら、ある先生が俺ばっかり注意するんだ。」

声は荒く、悔しさと怒りが入り混じっているのがわかった。

 

「俺だけが悪いわけじゃないのに。いつも俺ばっかり……なんで俺ばっかりなんだよ。」

俺はその気持ちが痛いほどわかった。

俺も昔、同じような経験をしたことがある。

だからこそ、彼に伝えた。

 

「俺もな、昔、似たようなことがあったんだ。」

〝ボス〟は黙って俺の方を見た。

「中学のとき、俺はある先生に、いつも目をつけられてた。何か問題が起きるたびに、真っ先に俺が疑われた。」

話しながら、当時の悔しさが蘇る。

「あのときは、本当にムカついたよ。俺だけが悪いんじゃないのに。何をやっても、先生は俺を信用しようとしなかった。」

〝ボス〟は少し顔を上げた。

「……じゃあ、どうしたんすか?」

「あるとき、ふと気づいたんだよ。」

 

俺は〝ボス〟の目を見ながら、ゆっくりと続けた。

「俺が何を言っても、先生は俺の過去の行動を見て判断してる。『こいつならやりそうだ』って。そんなレッテルを貼られてるんだってな。」

「……レッテル。」

「でもな、それを変えることができるのも、結局は俺自身だった。」

〝ボス〟は黙って聞いている。

 

「その先生は、俺の過去を見て俺を判断した。でも、俺の〝今〟と〝これから〟は、俺が作るしかないんだ。

先生の目を変えるのは簡単じゃなかったけど、俺は自分の行動で見返してやろうと思った。」

「どうやって……?」

「どんなに腹が立っても、正しい行動をすること。感情に任せて怒るんじゃなくて、自分がどうありたいかを考えること。」

〝ボス〟はじっと俺を見つめていた。

 

「お前には、人をまとめる力がある。優しさもあるし、責任感だって誰にも負けない。

それを無駄にするな。お前の今の行動が、これからの信頼を作るんだ。」

〝ボス〟は唇を噛んだ。

「いつか、大人になったときに、俺みたいに後悔してほしくないんだ。」

〝ボス〟は深く息をついた。

「……わかりました。」

その声は、ほんの少しだけ、柔らかくなっていた。

冷たい廊下で並んで座る

俺と〝ボス〟は、並んで冷たい廊下に座っていた。

 

しばらく、どちらも何も言わなかった。

ただ、静かな時間が流れていった。

けれど、不思議と居心地が悪くなかった。

 

心の中で、俺は思った。

〝ボス〟は、きっと素晴らしい社会人になる。

それを信じている。

俺の心の声が、聞こえているだろうか?