【スグルのリアル体験 35】〜 ボスよ、大きく翔け!
- 2025/05/08

卒業式の日は、いつも何かしらのトラブルが起こる。
暴れる、服装が適当、先生を殴る──そんな問題が毎年のようにある。
今年も例外ではなかった。
卒業生の先輩たちが来るとの情報が入り、警察が待機することに。
俺たち職員も役割を決めて対応することになった。
そして迎えた本番。結果として、俺たちは先輩たちを校舎内に入れずに済んだ。
おかげで、大きなトラブルなく卒業式は無事に終わった。
式のあと、職員総出で卒業生を正門で見送る。
別れを惜しみながら、一人ひとりと目を合わせ、声をかける。
すると、突然〝ボス〟が俺に向かって駆け寄ってきた。
そして、何の前触れもなく、力強く俺を抱きしめた。
「スグル先生、ありがとう」
思わず息をのんだ。
気づけば、俺の目から大粒の涙がこぼれていた。
こらえようとしても、止まらなかった。
後から聞いた話だが、ある日〝りょう君〟が怒りのあまり、
花壇の鉢を蹴り飛ばし、土や花を散乱させたことがあったらしい。
そのとき〝ボス〟が、〝りょう君〟にこう言ったという。
「その鉢は、スグル先生が植えたんだぞ」
〝りょう君〟は「…あっ!」と声を漏らし、気まずそうにしたらしい。
そして、〝ボス〟と二人で黙々と鉢を元どおりに戻していたそうだ。
俺はその話を聞いたとき、胸が熱くなった。
生徒たちは、ただ反抗しているように見えて、ちゃんと心の中では大切なものを持っている。
彼らも成長しているのだ。
俺は信じている。
彼らはいつか、誰かのために動ける大人になる。
誰かを思いやれる、社会の一員になる。
「〝ボス〟よ! この正門から出て、大きく翔け!
お前の素晴らしくて、優しい翼を広げて!」
俺自身、この学校で本格的に生徒指導を学び、
多くの経験を積ませてもらった。
生徒たちと真剣に向き合った日々は、俺の人生を変えたと言っても過言ではない。
校長先生をはじめ、生徒のために団結してきた先生たち。
4年間お世話になったこの学校を、いよいよ離れる時が来た。
体育館で離任の挨拶をし、花束を受け取り、正門を出たとき──
俺は、ある人物の姿を見つけた。
〝ボス〟だ。
待ち伏せしていたのだ。
まさか、俺を見送りに来てくれるとは思わなかった。
「スグル先生、荷物持つよ」
そう言って、俺の荷物をひょいっと肩にかける。
俺のことを当たり前のように支えようとする、その姿に、また泣きそうになった。
「ボス、ありがとうな」
声が震えるのを必死にこらえながら、俺はそう伝えた。
「先生、またいつでも会えるよな?」
〝ボス〟が不安そうに言う。
俺は笑って答えた。
「ああ、いつでも会えるさ。俺はお前を信頼してる」
言葉を交わしながら、駅まで歩いた。
信頼──それが、俺と〝ボス〟の絆だった。
お前は強くなった。優しくなった。
俺は、その成長をずっと見てきた。
〝ボス〟よ、本当にありがとう。
そして、これからも自分を信じて生きろ。
俺は、心からお前を誇りに思う。