【スグルのリアル体験 35】〜  ボスよ、大きく翔け!  

卒業式の日は、いつも何かしらのトラブルが起こる。

暴れる、服装が適当、先生を殴る──そんな問題が毎年のようにある。

今年も例外ではなかった。

 

卒業生の先輩たちが来るとの情報が入り、警察が待機することに。

俺たち職員も役割を決めて対応することになった。

そして迎えた本番。結果として、俺たちは先輩たちを校舎内に入れずに済んだ。

おかげで、大きなトラブルなく卒業式は無事に終わった。

 

式のあと、職員総出で卒業生を正門で見送る。

別れを惜しみながら、一人ひとりと目を合わせ、声をかける。

すると、突然〝ボス〟が俺に向かって駆け寄ってきた。

 

そして、何の前触れもなく、力強く俺を抱きしめた。

「スグル先生、ありがとう」

思わず息をのんだ。

気づけば、俺の目から大粒の涙がこぼれていた。

こらえようとしても、止まらなかった。

 

後から聞いた話だが、ある日〝りょう君〟が怒りのあまり、

花壇の鉢を蹴り飛ばし、土や花を散乱させたことがあったらしい。

そのとき〝ボス〟が、〝りょう君〟にこう言ったという。

「その鉢は、スグル先生が植えたんだぞ」

〝りょう君〟は「…あっ!」と声を漏らし、気まずそうにしたらしい。

そして、〝ボス〟と二人で黙々と鉢を元どおりに戻していたそうだ。

 

俺はその話を聞いたとき、胸が熱くなった。

生徒たちは、ただ反抗しているように見えて、ちゃんと心の中では大切なものを持っている。

彼らも成長しているのだ。

 

俺は信じている。

彼らはいつか、誰かのために動ける大人になる。

誰かを思いやれる、社会の一員になる。

「〝ボス〟よ! この正門から出て、大きく翔け!

 お前の素晴らしくて、優しい翼を広げて!」

俺自身、この学校で本格的に生徒指導を学び、

多くの経験を積ませてもらった。

 

生徒たちと真剣に向き合った日々は、俺の人生を変えたと言っても過言ではない。

校長先生をはじめ、生徒のために団結してきた先生たち。

4年間お世話になったこの学校を、いよいよ離れる時が来た。

 

体育館で離任の挨拶をし、花束を受け取り、正門を出たとき──

俺は、ある人物の姿を見つけた。

〝ボス〟だ。

待ち伏せしていたのだ。

まさか、俺を見送りに来てくれるとは思わなかった。

「スグル先生、荷物持つよ」

そう言って、俺の荷物をひょいっと肩にかける。

俺のことを当たり前のように支えようとする、その姿に、また泣きそうになった。

 

「ボス、ありがとうな」

声が震えるのを必死にこらえながら、俺はそう伝えた。

「先生、またいつでも会えるよな?」

〝ボス〟が不安そうに言う。

俺は笑って答えた。

「ああ、いつでも会えるさ。俺はお前を信頼してる」

言葉を交わしながら、駅まで歩いた。

 

信頼──それが、俺と〝ボス〟の絆だった。

お前は強くなった。優しくなった。

俺は、その成長をずっと見てきた。

〝ボス〟よ、本当にありがとう。

そして、これからも自分を信じて生きろ。

俺は、心からお前を誇りに思う。