【スグルのリアル体験 37】〜  信頼の形

「この地域は“お祭り”の上下関係で成り立っていると言っても過言ではない」

そう言われたとき、俺は正直、驚いた。

 

地域や保護者との関係が、学校運営の鍵を握る特殊な環境──。

先生たちも祭りに参加することで、地域との信頼関係を築き、学校を円滑に運営していく必要があるという。

「先生も、地域の一員として見られるんです。だから、一緒に祭りに参加することが大事なんです」

理解はできた。

 

だが、俺はこの学校でたった一人の〝学校用務員〟だ。

仕事を考えると、祭りへの参加はどうしても難しい。

そこで、俺は別の方法で、地域や保護者、生徒たちの信頼を得る道を探ることにした。

 

信頼を築くために

まず、俺が始めたのは〝朝の挨拶運動〟だった。

 

毎朝正門に立ち、生徒や通行人に元気よく挨拶をする。

最初は無反応だった生徒たちも、続けていくうちに少しずつ返事を返してくれるようになった。

そして、〝親父の会〟にも関わることにした。

この会は、地域の人や保護者が学校行事に積極的に関わり、生徒たちをフォローする組織だ。

俺は、行事の準備を手伝ったり、掃除を一緒にしたりして、徐々に地域の人たちと顔見知りになっていった。

 

継続していくうちに、生徒指導の先生や教務の先生とも一緒に行動するようになり、

気づけば、先生たちは俺の〝学校用務員〟の仕事を手伝ってくれるようになった。

そして、いつしか俺は〝生徒指導〟に深く関わるようになっていった。

 

ある朝、いつものように正門で挨拶運動をしていると、

見慣れない〝リーゼント頭の生徒〟が通り過ぎた。制服のボタンを外し赤いシャツをのぞかせ、腕をまくりあげている。

俺が「おはよう!」と声をかけると、

彼は鋭い目つきで睨み、無視して通り過ぎた。

その瞬間!俺はすぐに動いた。

「おい、ちょっと待て!挨拶くらいしろ」

俺の言葉に、じゅん君は足を止めた。

 

ピリッとした空気が流れ、一触即発の雰囲気──。

周囲の先生たちが慌てて割って入り、その場は収まったが、俺には彼の心の中が少し見えた気がした。

彼は転校してきたばかり。

新しい環境で「ナメられたくない」という気持ちが強く、

虚勢を張っているのだろう。

 

ここでしっかり抑えておかないと、生徒指導が後手に回る。

この学校の秩序を守るためにも、彼と正面から向き合う必要があった。

 

翌日、じゅん君が担任の先生と俺のところにやってきた。

「スグル先生、昨日はごめん」

俺は彼の目を見て言った。

 

じゅん君は、俺がただ怒ったのではなく、

〝彼のために叱った〟ことを担任の先生から聞いて理解してくれていた。

「お前はこの学校の大事な生徒だ。だから俺は本気で向き合う」

その日を境に、じゅん君は変わった。

 

次の日から、俺の目を見て挨拶をするようになった。

最初は小さな声だったが、日が経つにつれ、大きな声で「おはようございます!」と言うようになった。

そんなことを積み重ね、彼は、俺に話しかけてくるようになった。

 

ある時、俺は彼の肩を軽く叩いて言った。

「お前なら大丈夫だ。挨拶、ちゃんとできるようになったんだからな」

彼はちょっと照れくさそうに笑った。

俺は、彼が中学生ながら、親が経営する家業を手伝う、優しい子であることを知った。

 

そして卒業後──数年が経ち

、彼は居酒屋で店長として働いていた。

「いらっしゃいませ!」

店に入った俺は、彼の元気な声で迎えられた。

 

話しは、戻って・・

俺はこの学校で、

まだまだたくさんの生徒と

関わっていくことになる。

 

地域の文化に馴染むことも

大切だが、

俺は俺のやり方で、生徒や地域と向き合っていこう。

そしてまた、新しいドラマが始まる──。