【スグルのリアル体験 38】〜 本気で向き合うということ
- 2025/05/29

朝の挨拶運動。
毎日、校門に立ち、生徒たちに「おはよう」と声をかける。
校長先生が決めたルールがある。遅刻した生徒は運動場を2周走る。
それがペナルティ。
だが、毎日同じ生徒が遅刻する。彼らは注意を受け、2周走る。
また遅刻する。
また走る──。
その繰り返しだった。
理由を聞けば「両親が不在で、自分では朝が起きられない」
「夜遅くまで働く親を手伝っている」
「なんとなく、朝が苦手で…」
それぞれの事情を抱えていた。
叱られ、罰を受けるだけでは、習慣は変わらない。
では、どうすればいいのか──?
俺はふと、ひらめいた。
「もし、自分が彼らの立場だったら?」
その問いに、自分なりの答えを出した。
俺が選んだ行動
俺は決めた。
遅刻した生徒と一緒に運動場を走る。
たとえ1人でも、10人でも。
彼らが遅刻し続ける限り、俺も走る。
次の日──
遅刻者は4人。
「よし、一緒に走ろう!」
最初、生徒たちは驚いた顔をしていた。
けれど、俺が先頭を走ると、
みんな無言でついてきた。
その次の日も、その次の日も、
俺は彼らと走った。
遅刻者が4人、5人と増えれば、
その分、俺も走る距離が増える。
ヘトヘトになろうと、足が動かなくなろうと、
俺は走り続けた。
**「生徒の遅刻がなくなるまで、俺は走り続ける」**──そう決めたから。
そんな日々を続けていると、
ある日、先生たちが俺の姿を見て声をかけてくれた。
「スグル先生、もう限界でしょう? 自分が代わります」
確かに、俺の体力は限界だった。膝が笑い、足が前に出ない。
それでも俺は言った。
「這いつくばってでも、俺は走ります。遅刻する生徒がいなくなるまで」
倒れながらも、1歩ずつ、1歩ずつ前へ──。
その姿を、校舎の窓から生徒たちも見ていた。
それが、後になって思い返せば、俺とこの学校の先生たち、生徒たちの心が繋がるきっかけになった。
そして、ある日。
俺と一緒に走り続けていた遅刻の常習者**「原井君」**が、俺のペースに合わせ、スピードを落として横に並んできた。
いつも無言で走っていた彼が、ぽつりと言った。
「スグル先生、すみません」そう言って、頭を下げた。
俺は息を切らしながら答えた。
「君の遅刻がなくなるまで、俺は走り続けるからな」
彼は驚いたように俺を見つめた。
そして、今までにない表情を浮かべた。
俺は本気だった。
彼に伝えたかった。
「本気で向き合っている」ということを!
そして、次の日──
朝のチャイムが鳴る10分前。
校門の前に、いつも遅刻していた原井君の姿があった。
「おはようございます!」
彼は俺の目を見て、大きな声で挨拶をした。
俺は、思わず笑ってしまった。
息が詰まるほど嬉しくて、胸が熱くなった。
俺がどんなに言葉で説いても変わらなかった彼が、
俺がどんなに叱っても変わらなかった彼が、
自分の意思で早く来た。
そして、彼はその日から一度も遅刻しなくなった。
「本気」は伝わる
俺は思う。
本気で向き合えば、いつか必ず伝わる。
行動で示せば、生徒は感じ取る。
「信頼は、言葉じゃなく行動生まれる」
そう信じて、俺は校門に立ち続けた。
そして、新たな生徒と向き合う。