【スグルのリアル体験 38】〜  本気で向き合うということ

朝の挨拶運動。 

毎日、校門に立ち、生徒たちに「おはよう」と声をかける。

校長先生が決めたルールがある。遅刻した生徒は運動場を2周走る。 

それがペナルティ。

 

だが、毎日同じ生徒が遅刻する。彼らは注意を受け、2周走る。

また遅刻する。

また走る──。

その繰り返しだった。

 

理由を聞けば「両親が不在で、自分では朝が起きられない」

「夜遅くまで働く親を手伝っている」

「なんとなく、朝が苦手で…」

それぞれの事情を抱えていた。

叱られ、罰を受けるだけでは、習慣は変わらない。

では、どうすればいいのか──?

 

俺はふと、ひらめいた。

「もし、自分が彼らの立場だったら?」

その問いに、自分なりの答えを出した。

俺が選んだ行動

俺は決めた。

遅刻した生徒と一緒に運動場を走る。

たとえ1人でも、10人でも。

彼らが遅刻し続ける限り、俺も走る。

 

次の日──

遅刻者は4人。

「よし、一緒に走ろう!」

最初、生徒たちは驚いた顔をしていた。

けれど、俺が先頭を走ると、

みんな無言でついてきた。

その次の日も、その次の日も、

俺は彼らと走った。

遅刻者が4人、5人と増えれば、

その分、俺も走る距離が増える。

 

ヘトヘトになろうと、足が動かなくなろうと、

俺は走り続けた。

**「生徒の遅刻がなくなるまで、俺は走り続ける」**──そう決めたから。

そんな日々を続けていると、

ある日、先生たちが俺の姿を見て声をかけてくれた。

「スグル先生、もう限界でしょう? 自分が代わります」

確かに、俺の体力は限界だった。膝が笑い、足が前に出ない。

 

それでも俺は言った。

「這いつくばってでも、俺は走ります。遅刻する生徒がいなくなるまで」

倒れながらも、1歩ずつ、1歩ずつ前へ──。

その姿を、校舎の窓から生徒たちも見ていた。

 

それが、後になって思い返せば、俺とこの学校の先生たち、生徒たちの心が繋がるきっかけになった。

そして、ある日。

俺と一緒に走り続けていた遅刻の常習者**「原井君」**が、俺のペースに合わせ、スピードを落として横に並んできた。

いつも無言で走っていた彼が、ぽつりと言った。

「スグル先生、すみません」そう言って、頭を下げた。

俺は息を切らしながら答えた。

「君の遅刻がなくなるまで、俺は走り続けるからな」

彼は驚いたように俺を見つめた。

 

そして、今までにない表情を浮かべた。

俺は本気だった。

彼に伝えたかった。

「本気で向き合っている」ということを!

 

そして、次の日──

朝のチャイムが鳴る10分前。

校門の前に、いつも遅刻していた原井君の姿があった。

「おはようございます!」

彼は俺の目を見て、大きな声で挨拶をした。

俺は、思わず笑ってしまった。

息が詰まるほど嬉しくて、胸が熱くなった。

 

俺がどんなに言葉で説いても変わらなかった彼が、

俺がどんなに叱っても変わらなかった彼が、

自分の意思で早く来た。

そして、彼はその日から一度も遅刻しなくなった。

 

「本気」は伝わる

俺は思う。

本気で向き合えば、いつか必ず伝わる。

行動で示せば、生徒は感じ取る。

「信頼は、言葉じゃなく行動生まれる」

そう信じて、俺は校門に立ち続けた。

 

そして、新たな生徒と向き合う。

俺と生徒たちのドラマは、続いた。