【スグルのリアル体験 44】〜 番長と鬼ごっこ? 

「番長が暴れてます!」

補導の先生が慌てて教室に飛び込んできた。

俺はすぐさま教室へ向かった。 

 

中に入ると、番長が同じクラスの生徒と激しく揉めている。

お互いに譲る気配はなく、睨み合ったままだった。

「どうした?」

俺が声をかけると、番長はムスッとした表情で目を逸らした。

 

補導の先生が揉めた相手の生徒に話を聞き、俺は番長の側についた。

話を聞いてみると、原因はまったく他愛もないことだった。

 

小さな誤解が積み重なり、どちらも引くに引けなくなっただけ。

しばらく時間を置き、2人が少し落ち着いたころ、俺は彼らにある提案をした。

「昼休みに“鬼ごっこ”をしよう!」

「……はぁ?」

番長は眉をひそめた。

 

「なんでそんなことをするん?」

「たまにはいいじゃないか。あと3人参加するからさ」

「……まぁ、スグル先生には借りがあるからやるよ」

渋々といった様子だったが、番長も揉めた生徒も参加することになった。

 

これで生徒4人、俺と中村先生を加えて6人で“鬼ごっこ”だ。

正直、俺は若くない。体力的に大丈夫か、正直自信はなかった。

――そして、昼休み。

「よし、スタートだ!」

 

最初は、みんな照れくさそうにニヤけていた。

いい年した俺が鬼ごっこをやるのも妙な話だし、

番長がこういう遊びに付き合うことも滅多にないだろう。

でも、5分もたつと――

全員の顔つきが真剣に変わった。

気持ちの〝スイッチ〟が入ったのだ。

 

走る!走る!

鬼は追い、子は逃げる!

校庭を駆け回るうちに、俺も気がつけば夢中になっていた。

 

だが――

俺は脚を滑らせて転んだ。

「うわっ!」

ゴツン、と膝を打つ鈍い音。

擦りむいた膝がジンジン痛む。

 

次の瞬間、鬼になった番長が俺の前に立った。

……タッチされる。

そう思ったが、番長は俺に触れず、他の生徒を追いかけて行った。

こ、これは……もしかして**“あぶらむし”**!?

(幼い子どもが鬼ごっこに参加しても戦力にならず、

“鬼ごっこしているつもり”でキャーキャー走り回る、あの現象)

それが……まさか、俺に!?

 

「まぁ、歳の差があるから仕方ない……」

でも、普通は“オッサン”ではなく“幼子”が対象になるものだ。

複雑な気持ちのまま、膝を引きずりながらゲームの様子を見ていると、

どうやら鬼は番長から別の生徒に引き継がれたようだった。

 

すると――

新しい鬼は、俺のところに容赦なく来た!!

「ちょ、ちょっと待て!俺、怪我して――」

「タッチ!」

こ、こいつは……番長とは違い、血も涙もない!!

番長は俺を鬼にすることを避けてくれたが、

新しい鬼は情け容赦なく俺を捕まえた。

この温度差、なんとも言えない。

 

番長の優しさと、新しい鬼の冷酷さの対比。

そして、鬼になった俺の悔しさ……。

……なんだろうな、この気持ち。

 

鬼ごっこを通して、俺は久しぶりに“超ネガティブ思考”に追いやられた。

――俺はもう若くない。

――全力で走るなんて、久しくしていなかった。

――生徒たちとは、やっぱり体力的な差がある。

でも。

でもさ。

 

俺はこの時間を「やらなきゃよかった」なんて思いたくない。

番長も、揉めた生徒も、

最初は渋々だったのに、今は笑って夢中になっている。

鬼ごっこは、ただの遊びかもしれない。

でも、走り回るうちに、

もしかしたら――

 

怒りや悩みなんて、どうでもよくなったのかもしれない。

これは、世のため、人のため。

 

俺の膝の擦り傷も、心のネガティブ思考も、

全部、この笑顔のためだったんだと思うことにしよう。