【スグルのリアル体験 44】〜 番長と鬼ごっこ?
- 2025/07/10

「番長が暴れてます!」
補導の先生が慌てて教室に飛び込んできた。
俺はすぐさま教室へ向かった。
中に入ると、番長が同じクラスの生徒と激しく揉めている。
お互いに譲る気配はなく、睨み合ったままだった。
「どうした?」
俺が声をかけると、番長はムスッとした表情で目を逸らした。
補導の先生が揉めた相手の生徒に話を聞き、俺は番長の側についた。
話を聞いてみると、原因はまったく他愛もないことだった。
小さな誤解が積み重なり、どちらも引くに引けなくなっただけ。
しばらく時間を置き、2人が少し落ち着いたころ、俺は彼らにある提案をした。
「昼休みに“鬼ごっこ”をしよう!」
「……はぁ?」
番長は眉をひそめた。
「なんでそんなことをするん?」
「たまにはいいじゃないか。あと3人参加するからさ」
「……まぁ、スグル先生には借りがあるからやるよ」
渋々といった様子だったが、番長も揉めた生徒も参加することになった。
これで生徒4人、俺と中村先生を加えて6人で“鬼ごっこ”だ。
正直、俺は若くない。体力的に大丈夫か、正直自信はなかった。
――そして、昼休み。
「よし、スタートだ!」
最初は、みんな照れくさそうにニヤけていた。
いい年した俺が鬼ごっこをやるのも妙な話だし、
番長がこういう遊びに付き合うことも滅多にないだろう。
でも、5分もたつと――
全員の顔つきが真剣に変わった。
気持ちの〝スイッチ〟が入ったのだ。
走る!走る!
鬼は追い、子は逃げる!
校庭を駆け回るうちに、俺も気がつけば夢中になっていた。
だが――
俺は脚を滑らせて転んだ。
「うわっ!」
ゴツン、と膝を打つ鈍い音。
擦りむいた膝がジンジン痛む。
次の瞬間、鬼になった番長が俺の前に立った。
……タッチされる。
そう思ったが、番長は俺に触れず、他の生徒を追いかけて行った。
こ、これは……もしかして**“あぶらむし”**!?
(幼い子どもが鬼ごっこに参加しても戦力にならず、
“鬼ごっこしているつもり”でキャーキャー走り回る、あの現象)
それが……まさか、俺に!?
「まぁ、歳の差があるから仕方ない……」
でも、普通は“オッサン”ではなく“幼子”が対象になるものだ。
複雑な気持ちのまま、膝を引きずりながらゲームの様子を見ていると、
どうやら鬼は番長から別の生徒に引き継がれたようだった。
すると――
新しい鬼は、俺のところに容赦なく来た!!
「ちょ、ちょっと待て!俺、怪我して――」
「タッチ!」
こ、こいつは……番長とは違い、血も涙もない!!
番長は俺を鬼にすることを避けてくれたが、
新しい鬼は情け容赦なく俺を捕まえた。
この温度差、なんとも言えない。
番長の優しさと、新しい鬼の冷酷さの対比。
そして、鬼になった俺の悔しさ……。
……なんだろうな、この気持ち。
鬼ごっこを通して、俺は久しぶりに“超ネガティブ思考”に追いやられた。
――俺はもう若くない。
――全力で走るなんて、久しくしていなかった。
――生徒たちとは、やっぱり体力的な差がある。
でも。
でもさ。
俺はこの時間を「やらなきゃよかった」なんて思いたくない。
番長も、揉めた生徒も、
最初は渋々だったのに、今は笑って夢中になっている。
鬼ごっこは、ただの遊びかもしれない。
でも、走り回るうちに、
もしかしたら――
怒りや悩みなんて、どうでもよくなったのかもしれない。
これは、世のため、人のため。