【スグルのリアル体験 45】〜 悪魔のささやき
- 2025/07/17

「鬼になった俺は〝擦りむいた脚を引きずりながら〟走る」
そのときだった。
心の中で悪魔がささやいた。
――「1番脚が遅く、弱そうな奴を狙うのだ!スグル」
12年間、生徒たちのために正義を貫いてきた。
善良で、公正な教師であろうと努力してきた。
だが、これは鬼ごっこだ。遊びなのだ。
俺の心の悪魔が〝ケラケラ〟と笑い、擦りむいた脚も軽やかに動き出す。
そして、ターゲットを定めた。
村山君。
小柄で華奢で、足も遅い。
俺が鬼になった今、最も捕まえやすい存在。
だが、俺の脚も負傷していて、思うように走れない。
そこで、再び悪魔がささやく。
――「お前の作業室に鍵があるではないか!」
俺は用務員室を仕事場として校庭の隅に持っている。
その存在が、今になって都合よく思えてくる。
俺はジワジワと村山君を作業室の近くへと誘い出した。
「村山君、ごめんよ。これは君に社会の厳しさを学んでもらうためなんだ……」
そう心の中で言い訳をしながら、俺は無表情で〝タッチ〟。
そして――
すかさず作業室へ逃げ込み、鍵をかけた。
「先生!開けてください!」
ドアを〝ガチャガチャ〟と揺らす音がする。
しかし、開くはずがない。
村山君はしばらく粘ったが、やがて諦めて去っていった。
俺は、何とも言えない解放感に包まれていた。
「なんだ、この解放感は……!」
今までの人生で感じたことのない、背徳感と達成感が入り混じった妙な感情。
それと同時に、鬼ごっこが持つ“人間の本性を暴く力”の深さを知った気がした。
番長の優しさ。
彼は俺を“おみそ”扱いし、鬼にしなかった。
俺のズルさ。
最弱の者を狙い、挙げ句の果てに鍵をかけて逃げた。
そして、ゲームが終わると、俺たちは**「反省会」**を開いた。
「大人が鬼ごっこをするとどうなるのか?」
・最初は恥ずかしかったが、やっていると真剣になった
・童心にかえった
・時間が経つのがあっという間だった
・人間性がもろに出る
「……人間性でいうと、俺は最悪である。」
そう結論付けた。
悪魔のささやきに負け、最も弱い者を追い詰め、
しまいには自分の職務を利用して鍵をかけた。
こんなことをしてしまう自分が情けない。
だが、それ以上に、この40分間、みんなが全力で走り、はしゃいだことが大切だった。
「スグル先生、勉強になりました!楽しかったです!」
中村先生が俺に言った。
俺は思わず笑った。
鬼ごっこという“ただの遊び”が、先生と生徒の垣根をなくし、
本気でぶつかり合う貴重な時間になった。
俺はまだまだ未熟だ。