【スグルのリアル体験 46】  〜鬼ごっこの悪魔が、天使になった瞬間〜

全国で34万人以上。いま、学校に行けない子どもたちがいる。

 

この中学校にも、数名の不登校生がいた。

 

ある日、教務の先生が俺のところへ来てこう言った。

「スグル先生、来週の職場体験学習… ひとりお願いできませんか?」

その生徒の名前は、浜田くん。

 

不登校。1日来ても、2日目は遅刻。3日目にはもう来られない。

家庭環境も複雑で、心の奥の殻に閉じこもっている。

 

俺は即答できなかった。

 

「自信がない」わけじゃない。

でも、“やるからには本気”が俺の信条だ。

彼に、学校の意味や楽しさを伝えたい。そう思うと、不思議と心が熱くなった。

 

これは…神様からのプレゼントかもしれない。

 

「お前、まだ“天使”になれるぞ」って。そんな気がした。

そして――浜田くんがやってきた。

 

背が高く、髪はボサボサ。ぽっちゃり体型。

「おはよう!一緒に楽しもうな!」と声をかけると、彼は「…はい」と暗い声で返した。

小さく、けれど確かに返ってきた。最初の作戦は【安心させること】。

 

俺は考え抜いた。

 

彼に提案したのは――

校舎の壁のペンキ塗り。ただの作業じゃない。

「この場所は、君の居場所だ」と伝えるメッセージだ。

 

場所は理科室前の5mの壁。

 

“思い出”になるよう、あえて汚れた部分を選んだ。

理科の先生にもお願いして、その期間は第2理科室を使ってもらった。

他の先生にも声をかけ、彼にさりげなく話しかけてもらった。

お、うまく塗ってるね〜」

「ありがとう、助かるよ」

 

浜田くんは最初、無言でうつむいていた。

 

でも――3日目。

彼の手が、止まらずに動いていた。

時間になっても、「もう少し、ここだけやらせてください」って。

 

俺は心の中で、思わずガッツポーズ。

 

彼の背中が、少しだけ…自信に満ちていた。

「浜田、お前、なかなかやるな」って言うと、小さく笑った。

俺はその笑顔を、一生忘れない。

たった7日間。でも、彼にとっては“人生が

少し変わるきっかけ”になったかもしれない。

そして、俺にとっても。

 

教育って、こういうことだ。誰かの“今”に寄り添うこと。答えは出なくても、共にいること。

あの時、職場体験を持ってきてくれた教務の先生――

 

あの人はきっと、神様の遣いだった。 

 

そして俺は、あの7日間だけは天使になれた気がする。