【スグルのリアル体験54】〜 ぎゅうぎゅう弁当に詰まったの母への思い 〜
- 2025/09/18

「けんじ君、お母さんは幸せだと思う?」
俺は、そう問いかけた。
彼は目をそらし、小さな声で「…あまり思わない」と呟いた。
「どうして?」
「いつも…薬を飲んでて、キツそうだから…」
その答えに、胸が締めつけられた。
けんじ君はまだ小学校5年生。
だけど彼の目には、幼さだけでない、違う何かを背負った影が見えた。
「どうしたら、お母さんは幸せになると思う?」
俺は、静かに問いかけた。
彼は、黙って首を横に振った。
「お母さんはな、きっとけんじ君が元気に学校に通って、
将来、立派に成長して、お母さんを支えてくれるようになることを、願ってると思う」
「君ならできる。君なら、お母さんを幸せにできる。
だって、お母さんには…頼れる人は君しかいないんだよ」
そう伝えると、けんじ君は黙って、でも真っ直ぐに俺の目を見つめた。
その目には…ほんの少しだけ、光が宿っていたように思う。
それからの日々——
彼はたまに遅刻はしても、少しずつ学校に通い始めた。
そしてある日、担任の先生が俺のところへ、興奮気味に走ってきた。
「スグル先生っ!!けんじ君が…けんじ君が、自分でお弁当を作ってきたんです!!」
「えっ!ほんとですか?」
「はい!今日の遠足に向けて、自分で作ったって…すっごく嬉しそうに見せてくれて」
そのとき、俺は言葉が出なかった。
後で写真を見せてもらった。
そこには、ニコニコと微笑むけんじ君と、ぎゅうぎゅうにおかずが詰められたお弁当。
彩りなんか気にしていない、不器用で真っ直ぐな“命のごはん”。
俺はその写真を、今でも大切に持ってる。
なぜなら、けんじ君が“誰かのために頑張ろう”と決めた、
人生で初めての“優しさの証”だったから。
その優しさは、きっとお母さんに届いてる——
そう信じてる。

