【スグルのリアル体験54】〜 ぎゅうぎゅう弁当に詰まったの母への思い 〜

「けんじ君、お母さんは幸せだと思う?」

俺は、そう問いかけた。

 

彼は目をそらし、小さな声で「…あまり思わない」と呟いた。

「どうして?」

「いつも…薬を飲んでて、キツそうだから…」

その答えに、胸が締めつけられた。

 

けんじ君はまだ小学校5年生。

だけど彼の目には、幼さだけでない、違う何かを背負った影が見えた。

「どうしたら、お母さんは幸せになると思う?」

俺は、静かに問いかけた。

 

彼は、黙って首を横に振った。

「お母さんはな、きっとけんじ君が元気に学校に通って、

将来、立派に成長して、お母さんを支えてくれるようになることを、願ってると思う」

「君ならできる。君なら、お母さんを幸せにできる。

 

だって、お母さんには…頼れる人は君しかいないんだよ」

そう伝えると、けんじ君は黙って、でも真っ直ぐに俺の目を見つめた。

その目には…ほんの少しだけ、光が宿っていたように思う。

 

それからの日々——

彼はたまに遅刻はしても、少しずつ学校に通い始めた。

そしてある日、担任の先生が俺のところへ、興奮気味に走ってきた。

「スグル先生っ!!けんじ君が…けんじ君が、自分でお弁当を作ってきたんです!!」

「えっ!ほんとですか?」

「はい!今日の遠足に向けて、自分で作ったって…すっごく嬉しそうに見せてくれて」

そのとき、俺は言葉が出なかった。

 

後で写真を見せてもらった。

そこには、ニコニコと微笑むけんじ君と、ぎゅうぎゅうにおかずが詰められたお弁当。

彩りなんか気にしていない、不器用で真っ直ぐな“命のごはん”。

俺はその写真を、今でも大切に持ってる。

 

なぜなら、けんじ君が“誰かのために頑張ろう”と決めた、

人生で初めての“優しさの証”だったから。

その優しさは、きっとお母さんに届いてる——

そう信じてる。