【スグルのリアル体験55】 〜 試される教室、試した瞳 〜
- 2025/09/25

2月、雪の降るある日。
校長先生から呼び出された俺は、校長室で深刻な話を聞かされた。
「6年3組が荒れていて、授業が成り立たないんだ」
担任はベテランの男性教師。
それでも、主犯格の4人を前に手を焼いていた。
校長、教頭、教務主任の安永先生、そして俺——スグルで交代で教室に入ることが決まった。
「小学生が荒れる?大げさだろ…」
正直、中学校で長く勤務してきた俺は、軽く見ていた。
だが、教室に入った瞬間、その考えは消えた。
一見、静かで落ち着いた雰囲気。
しかし床には輪ゴム、雑巾、紙くずが散らばり、児童の目がジッと俺を追ってくる。
——試されてる。そう感じた。
視線の中心にいたのは、赤髪の翔君。
「翔君、俺はスグルっていいます。よろしくな」
一瞬驚いた表情を見せた彼は、すぐに“ニヤリ”と笑った。
その奥に、妙な寂しさが見えた。
二日後。
再び入った教室で、翔君が仲間とふざけ、クラスを先導していた。
威厳を保つための行動——すぐに分かった。
「翔君、ちょっと出ようか」
校庭の片隅、雪が薄く積もったベンチに並んで腰を下ろす。
白い息が周りの景色にとけていく。
「俺も昔な、ふざけて人に迷惑ばかりかけてた。
服もボロボロで、陰で“バカバカ”って言われてた。
でも悔しくてさ…いつか見返してやるって決めた。
そして今、お前とこうして話してる」
翔君は黙って聞いていた。
「本当に強いってのはな、誰かを殴ることじゃない。
ひとりでも自分を貫くことだ」
その瞬間、彼のまぶたがわずかに震え、小さくうなずいた。
それから何度も、翔君と仲間を呼び、話し続けた。
少しずつ、彼の表情から尖った色が抜けていった。