【スグルのリアル体験55】 〜 試される教室、試した瞳 〜

2月、雪の降るある日。

校長先生から呼び出された俺は、校長室で深刻な話を聞かされた。

「6年3組が荒れていて、授業が成り立たないんだ」

 

担任はベテランの男性教師。

それでも、主犯格の4人を前に手を焼いていた。

校長、教頭、教務主任の安永先生、そして俺——スグルで交代で教室に入ることが決まった。

 

「小学生が荒れる?大げさだろ…」

正直、中学校で長く勤務してきた俺は、軽く見ていた。

 

だが、教室に入った瞬間、その考えは消えた。

一見、静かで落ち着いた雰囲気。

しかし床には輪ゴム、雑巾、紙くずが散らばり、児童の目がジッと俺を追ってくる。

——試されてる。そう感じた。

 

視線の中心にいたのは、赤髪の翔君。

「翔君、俺はスグルっていいます。よろしくな」

一瞬驚いた表情を見せた彼は、すぐに“ニヤリ”と笑った。

その奥に、妙な寂しさが見えた。

 

二日後。

再び入った教室で、翔君が仲間とふざけ、クラスを先導していた。

威厳を保つための行動——すぐに分かった。

 

「翔君、ちょっと出ようか」

校庭の片隅、雪が薄く積もったベンチに並んで腰を下ろす。

 

白い息が周りの景色にとけていく。

「俺も昔な、ふざけて人に迷惑ばかりかけてた。

服もボロボロで、陰で“バカバカ”って言われてた。

でも悔しくてさ…いつか見返してやるって決めた。

 

そして今、お前とこうして話してる」

翔君は黙って聞いていた。

 

「本当に強いってのはな、誰かを殴ることじゃない。

ひとりでも自分を貫くことだ」

その瞬間、彼のまぶたがわずかに震え、小さくうなずいた。

 

それから何度も、翔君と仲間を呼び、話し続けた。

少しずつ、彼の表情から尖った色が抜けていった。

たった一度でもいい。

誰かが本気で向き合えば、子どもは変わろうとするのだ