【スグルのリアル体験56】 〜 本音 〜

放課後。  

静まり返った校舎の中で、俺は用務員室に6年3組の“せいじ君”を呼んだ。

 

正義感が強く、嘘が少ない──この子からなら、何か“本音”が引き出せるかもしれない。

そう感じたからだ。

安永先生と南先生には、用務員室の外で見張っていてもらい、誰にも邪魔されない空間を用意した。

 

やって来た“せいじ君”は、目を合わせず、少しうつむきながら部屋に入ってきた。

俺はいつものように、低く静かな声で言った。

「せいじ君、ありがとう。来てくれて嬉しいよ。」

ゆっくりと椅子に座らせ、目線を合わせる。

俺は、責めるような口調にはしなかった。

 

それから“せいじ君”が「聞く準備」をしているか、を見極めた。

「せいじ君は、何で学校であんなことをしてるんだろう?」

黙っている。だけど、ほんのわずかに指先が揺れた。

俺は続ける。

 

「悪いことをしてるって分かってるのに、止まらない時って、あるよな。」

その瞬間、彼の瞳が、スッと俺の目を見た。

「……先生が悪いんだよ」

小さくて震える声だった。

 

「何があった?」

「〇〇のことだけ、いつも怒らないし…ぼくの話、信じてくれない」

「うんうん」俺はうなずきながら聞いた。

「せいじ君は、正しいことが好きなんだな」

彼はコクンと頷いた。

 

「だけどさ、たとえ正しくても、人をバカにしたり、傷つけたりするやり方じゃ、周りには伝わらないんだ。」

「……。」

「せいじ君はリーダーになれる子だよ。君が悪ふざけに加担するから、周りの子が安心して騒げるんだ。」

「……。」

「その力を、違う方向に使ってみないか?」

せいじ君の肩がピクリと動いた。

 

「一度でいい。次の授業のとき、何も言わなくていいから、席に座って、先生の話を静かに聞いてくれ。それだけでいい。」

「それだけ…?」

「ああ、それだけだよ。もし、それができたら、俺は嬉しい。そして、君のことをもっと信じられる。」

少し間をおいて、“せいじ君”はゆっくりと頷いた。

 

その時、俺は確かに見た。

彼の目に宿った、一筋の光──

誰かに“信じられた”という、わずかな希望の光だった。

その夜、俺は日誌にこう書いた。

「せいじ君、あとは君を信じるだけだ。頼むぞ。」

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