【スグルのリアル体験56】 〜 本音 〜
- 2025/10/02

放課後。
静まり返った校舎の中で、俺は用務員室に6年3組の“せいじ君”を呼んだ。
正義感が強く、嘘が少ない──この子からなら、何か“本音”が引き出せるかもしれない。
そう感じたからだ。
安永先生と南先生には、用務員室の外で見張っていてもらい、誰にも邪魔されない空間を用意した。
やって来た“せいじ君”は、目を合わせず、少しうつむきながら部屋に入ってきた。
俺はいつものように、低く静かな声で言った。
「せいじ君、ありがとう。来てくれて嬉しいよ。」
ゆっくりと椅子に座らせ、目線を合わせる。
俺は、責めるような口調にはしなかった。
それから“せいじ君”が「聞く準備」をしているか、を見極めた。
「せいじ君は、何で学校であんなことをしてるんだろう?」
黙っている。だけど、ほんのわずかに指先が揺れた。
俺は続ける。
「悪いことをしてるって分かってるのに、止まらない時って、あるよな。」
その瞬間、彼の瞳が、スッと俺の目を見た。
「……先生が悪いんだよ」
小さくて震える声だった。
「何があった?」
「〇〇のことだけ、いつも怒らないし…ぼくの話、信じてくれない」
「うんうん」俺はうなずきながら聞いた。
「せいじ君は、正しいことが好きなんだな」
彼はコクンと頷いた。
「だけどさ、たとえ正しくても、人をバカにしたり、傷つけたりするやり方じゃ、周りには伝わらないんだ。」
「……。」
「せいじ君はリーダーになれる子だよ。君が悪ふざけに加担するから、周りの子が安心して騒げるんだ。」
「……。」
「その力を、違う方向に使ってみないか?」
せいじ君の肩がピクリと動いた。
「一度でいい。次の授業のとき、何も言わなくていいから、席に座って、先生の話を静かに聞いてくれ。それだけでいい。」
「それだけ…?」
「ああ、それだけだよ。もし、それができたら、俺は嬉しい。そして、君のことをもっと信じられる。」
少し間をおいて、“せいじ君”はゆっくりと頷いた。
その時、俺は確かに見た。
彼の目に宿った、一筋の光──
誰かに“信じられた”という、わずかな希望の光だった。
その夜、俺は日誌にこう書いた。
「せいじ君、あとは君を信じるだけだ。頼むぞ。」
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