【スグルのリアル体験60 】 〜 あの日の志を、もう一度 〜
- 2025/10/30

「さぁ!つぎは “ハット”作戦だ!」
彼が教員を志したのは、小学校のころ。
熱心で、いつも一人ひとりに向き合ってくれた担任の先生に、心を動かされたという。
──あの頃の気持ちを、もう一度思い出してほしい。
そう思った俺は、かつて“荒れた4人組”と対峙し、共に教室を立て直した南先生に声をかけた。
「南先生、頼む。あの新任の先生に、うまく“気づき”を与えてやってくれ」
「任せてください!」と笑う南先生
もし、彼が自分のプライドを手放し、児童と向き合いなおすことができたら──
きっと、憧れた“あの先生”に近づける。
そんな未来を想像するだけで、俺は胸が熱くなった。
夕方、用務員室の片隅で壊れた木工棚の修理をしていたときだった。
「スグル先生、今日の夜、お時間ありますか?」
声をかけてきたのは、南先生だった。
「いいよ。どこ行く?」
「駅前の“みよし食堂”で」
思わず笑みがこぼれた。
定時を過ぎて、俺は慌てて作業服を脱ぎ、学校を飛び出した。
駅までの道を小走りに駆け抜け、ギリギリ電車に飛び乗る。
“みよし食堂”に着いたのは19時ちょうど。
引き戸を開けると、そこには南先生と、あの若い新任教師がいた。
「スグル先生、お疲れさまです」
「おっ、2人ともいい顔してるな」
席に着くと、俺は何も聞かなかった。
すでに南先生が、彼に必要な言葉をかけてくれたことは、二人の空気でわかったからだ。
だからこそ、俺はただ、仕事とは関係ない話をして笑い合った。
その夜、3人でたっぷり食べて、たっぷり飲んだ。
少しふらつきながらも、3人で肩を組み、未来を語り合った。
「俺たちは、まだまだここからだよな」
そう言った南先生の言葉に、新任の先生が強くうなずく。
見上げた夜空に、月がぽっかり浮かんでいた。
アスファルトには、3人の影が静かに揺れていた。
──頼もしく、まっすぐに。

