【スグルのリアル体験63】〜 りお君との約束 〜
- 2025/11/20

教室で喧嘩の絶えない児童――りお君。
カッとなると、すぐに手が出てしまう。
校長先生の判断で、しばらくの間「用務員室」で過ごすことになった。
落ち着くまで、ひとり勉強をするのだ。
私は仕事の合間に、そっと様子を覗きこんだ。
そこには、ノートに真剣に向き合うりお君の姿があった。
何度も消しゴムで消しては、書き直す。
乱暴な児童という印象とは、まるで別人のように見えた。
チャイムが鳴り、休み時間。
私は思い切って声をかけた。
「りお君、君はすごいね。よく頑張って書いている。…でも、どうして友達と喧嘩になるんだろう?」
彼は即座に答えた。
「相手が悪口を言うから!」
「りお君は、悪口を言ったことはある?」
「ある」
「じゃあ、お互いさまだね。でも、そのあと殴るのは間違いだよ。もし殴られて怪我をしたら? 目が見えなくなったらどうする?」
その瞬間、りお君は黙り込んだ。
それから数日、彼は用務員室で過ごした。
強い日差しが差し込む夏の前。
二人並んで過ごす時間の中で、俺は何度も、何度も語りかけた。
――将来は、人を優しさで包み、頼られる大人になってほしい。
そう願いを込めて。
やがて一学期が終わり、終業式の日がやってきた。
俺たち職員にとっては、夏休みこそ忙しい期間。
営繕や研修、校舎の美観整備など山積みだ。
職員作業の案を練っていると、用務員室のドアが開いた。
そこに立っていたのは――りお君とお母さん。
「スグル先生、りおがお世話になりました。これを…」
差し出されたのは、プレゼント袋に包まれた一冊のノートと一本のペンだった。
「ありがとうございます。大切に使わせていただきます!」
りお君は恥ずかしそうに、それでもどこか誇らしげに笑っていた。
胸の奥に熱いものが込み上げた。
―― 真剣に向き合えば、いつかは心が通じるとそう信じている。

