【スグルのリアル体験64】〜 ゆうすけ君の笑顔 〜
- 2025/11/27

この小学校には【特別学級】がある。
軽度の知的障害や情緒障害を持つ子どもたちのクラスだ。
クラスの前を通るたびに、「スグル先生!」と子どもたちが声をかけてくれる。
その笑顔はまさに天使のようで、俺はいつも元気をもらっていた。
ある日、特別学級の担任の先生が申し訳なさそうにやってきた。
「スグル先生、すみません…また窓を割ってしまって…」
思い返せば、ここ2週間で5枚も割れていた。
この教室だけは安全のため、窓ガラスではなくプラスチックが使われている。
担任の先生は続けた。
「実は、ゆうすけ君という児童がいて、突然暴れ出すんです。だからできるだけお母さんに来てもらうようにしていて…」
俺は中学校で特別学級に関わった経験があったが、暴れる児童に出会ったことはなかった。
普通学級の“荒れ”とは違う――そう直感した。
だから修理に入るときは、授業中でも遠慮なく入らせてもらうよう担任にお願いした。
まずは子どもたちの様子を知るために。
ある日、教室に向かうと、ゆうすけ君は廊下で隣の先生と話していた。
ふっと顔を上げると、また窓が割れていた。
俺は彼の小さな体に近づき、声をかけた。
「ゆうすけ君、怪我はしなかったか?」
彼は自分の教室を指さしながら、
「あいつが悪い!あいつが悪い!」と繰り返す。
その言葉に、胸が締めつけられた。
きっと彼の心の中には、言葉では表せない葛藤や孤独があるのだろう。
――よし、このクラスにできるだけ足を運ぼう。
彼に俺の存在を覚えてもらうために。
そして、彼の心に少しでも寄り添うために。
そう決意した日から、俺は時間を見つけて特別学級に顔を出した。
時には修理のふりをして、時にはただ雑談をするために。
最初は視線を合わせようとしなかったゆうすけ君。
だがある日、ふとこちらを見て、ほんの一瞬だけ笑った。
今までにない、表情を彼は見せたのだ!
心が繋がった瞬間だった。
その笑顔は、一瞬でも確かな希望の光だと
俺は心の中で強く感じた
――。
時間がかかっても繰り返し、繰り返し諦めずに
彼と関わることで希望の光が見えたのだった。

