【スグルのリアル体験64】〜 ゆうすけ君の笑顔 〜

この小学校には【特別学級】がある。

軽度の知的障害や情緒障害を持つ子どもたちのクラスだ。

 

クラスの前を通るたびに、「スグル先生!」と子どもたちが声をかけてくれる。

その笑顔はまさに天使のようで、俺はいつも元気をもらっていた。

 

ある日、特別学級の担任の先生が申し訳なさそうにやってきた。

 

「スグル先生、すみません…また窓を割ってしまって…」

思い返せば、ここ2週間で5枚も割れていた。

 

この教室だけは安全のため、窓ガラスではなくプラスチックが使われている。

担任の先生は続けた。

「実は、ゆうすけ君という児童がいて、突然暴れ出すんです。だからできるだけお母さんに来てもらうようにしていて…」

俺は中学校で特別学級に関わった経験があったが、暴れる児童に出会ったことはなかった。

 

普通学級の“荒れ”とは違う――そう直感した。

 

だから修理に入るときは、授業中でも遠慮なく入らせてもらうよう担任にお願いした。

まずは子どもたちの様子を知るために。

 

ある日、教室に向かうと、ゆうすけ君は廊下で隣の先生と話していた。

ふっと顔を上げると、また窓が割れていた。

俺は彼の小さな体に近づき、声をかけた。

「ゆうすけ君、怪我はしなかったか?」

彼は自分の教室を指さしながら、

 

「あいつが悪い!あいつが悪い!」と繰り返す。

その言葉に、胸が締めつけられた。

きっと彼の心の中には、言葉では表せない葛藤や孤独があるのだろう。

――よし、このクラスにできるだけ足を運ぼう。

 

彼に俺の存在を覚えてもらうために。

そして、彼の心に少しでも寄り添うために。

 

そう決意した日から、俺は時間を見つけて特別学級に顔を出した。

時には修理のふりをして、時にはただ雑談をするために。

 

最初は視線を合わせようとしなかったゆうすけ君。

だがある日、ふとこちらを見て、ほんの一瞬だけ笑った。

 

今までにない、表情を彼は見せたのだ!

心が繋がった瞬間だった。

 

その笑顔は、一瞬でも確かな希望の光だと

俺は心の中で強く感じた

――。

時間がかかっても繰り返し、繰り返し諦めずに

彼と関わることで希望の光が見えたのだった。