【スグルのリアル体験 7 】〜「厳しさの裏にある温かさ」
- 2025/01/07
俺が初めて学校用務員として小学校に配属されたのは、25歳の春。
校舎や教室の修理、教材の製作、教育委員会との文書の運搬など、
慣れない業務に戸惑いながらも必死に覚えようと努力していた。
学校の一員として働き始めたばかりの俺は、
右も左も分からない状態だった。
そんな俺にとって最初の大きな壁が、先輩公務員の秋山先生という存在だった。
秋山先生は46歳。学校用務員として仕事をこなしながら、労働組合の組合長も務めるベテラン中のベテラン。
校長先生からは「秋山先生を支えてやってくれ」と言われたが、何をどう支えればいいのか皆目見当がつかない。
だが、とにかく目の前の仕事を覚えることに必死だった俺に、秋山先生の厳しい
指導が容赦なく降り注いだ。
「スグル君、これじゃダメだ。もっと丁寧にやらないと」
「道具の使い方が甘い!安全確認を怠るな!」
仕事中は何度も叱られた。
休み時間には、子どもたちと遊びなさい、先生たちとの交流を大切にしなさいと言う
俺が思い描いていた「用務員」という職業のイメージとはまったく違った!
用務員の仕事が、こんなにも人と向き合い、学校を支える役割を担っているとは思いもしなかった。
秋山先生の働きぶりは尋常ではなかった。
仕事の合間に、職員室で職員たちが次々と相談に来たり、教育委員会では常に
重要な話をしていたり・・周囲の人たちが、一目置く存在であることが次第に分かってきた。
誰もが彼を頼り、彼の言葉に耳を傾けていた。
そして、秋山先生は決して俺を褒めることはなかった。
何度仕事をこなしても、どれだけ頑張っても、
彼からの評価の言葉は一切なかった。
それでも俺は、秋山先生に認められたい一心で、懸命に仕事に向き合った。
6年後の職種変更試験に合格して行政職に転じるという目標があった俺だが、
その頃には「秋山先生に追いつきたい」という気持ちが目標に加わっていた。
そんなある日、教育委員会での会議の帰り、
秋山先生がふとこう言った。
「スグル君、仕事ってのは、学校や子どもたちを支えるためのものだ。自分のためじゃない。
誰かのために何ができるか、それを考え続けるのが、この仕事なんだよ。」
その言葉が胸に突き刺さった。
いつも黙々と仕事をこなし、周囲に影響を与え続けている秋山先生の生き方が、
この一言に凝縮されているように感じた。
その瞬間、俺は心の中で「この人を超えたい」と強く思った。用務員という職業の枠を超えて、
学校全体、そして地域を支える秋山先生のような人間になりたいと!
秋山先生が厳しくも温かく教えてくれた仕事の意味。
その教えが、俺の中で少しずつ根を張り始めているのを感じていた。
俺が目指しているのは、単なるキャリアアップではない。
秋山先生のように、誰かのために動ける人間になること。
その目標を胸に、俺は懸命に仕事に向き合った。
秋山先生のような人に、いつかなれるだろうかと!