【スグルのリアル体験 15】〜子どもに居場所を

秋山先生が出張で不在が多くなり、俺一人になる機会が増えて、

次第に俺は三木先生と一緒に仕事をする時間が多くなっていった。

三木先生は教務主任としての仕事を終えた後、俺にいろいろと教えながら一緒に仕事をしてくれる。

 

俺も少しずつ教務主任の仕事を手伝うようになり、慣れない仕事に悪戦苦闘していた。

そんなある日、三木先生が「不登校の児童の家に一緒に行こう」と言ってきた。

その言葉を聞いた瞬間、俺はふと小学生の頃を思い出した。

 

家庭訪問で先生が家に来たときの、あの何とも言えないワクワク感。子どもながらに

「先生が自分を見てくれている」という感覚が嬉しかったのだ。

そんな記憶が蘇りながら、俺は三木先生と一緒に子どもの家に向かった。

 

到着したのは古びた小さなアパートだった。

玄関先で声をかけるものの、なかなか返事はない。冷たい風がアパートの廊下を吹き抜ける中、

俺たちは10分ほど待っただろうか?

ようやくドアがゆっくりと開き、そこに現れたのは、洗濯していない服を着た痩せ細った少年だった。

髪はぼさぼさで、目は眠たげ。それでも素直そうな表情が印象的だった。

 

家の中からは何の物音もせず、両親の姿は見えない。

三木先生は持参していた学校の給食のパンを子どもに手渡した。彼は無言のままそれを

受け取ると、再び奥へと戻っていった。

その姿を見て、悲しくなった。

 

後日、三木先生ともう一度その子どもの家を訪れた。

今度は彼を学校に連れて行くためだった。道中、俺はどうしても気になり、

三木先生に児童について尋ねた。

その答えを聞いた瞬間、思わず息を呑んだ。

 

「あの子、母親はいないんだ。

母親は何年か前に家を出て、父親が面倒を見ていたけど、病気をしていて・・それ以来、彼は学校に来ないんだ。」

信じられない思いだった。小学生が一人、孤独でいる。

昔の自分を思い出した。ただ、俺には、忙しくていない事もあったが父がおり、近所の人にも助けられた。

それが彼にはないというのだろうか。

 

学校に到着すると、クラスメイトたちが驚きながらも彼を温かく迎え入れた。

その日、教室の片隅で静かに座っている彼の姿を見ながら、俺は思った。

 

俺たちができることは、

彼が孤独だと感じないように、ここが「自分の居場所」だと思ってもらえるようにすることだと。

夜、俺は一人でノートに彼のことを書き留めた。「あの子が少しでも笑えるように、俺に何ができるだろう?」

学校職員としての役割を初めて深く実感した瞬間だった。