【スグルのリアル体験 15】〜子どもに居場所を
- 2025/01/23
秋山先生が出張で不在が多くなり、俺一人になる機会が増えて、
次第に俺は三木先生と一緒に仕事をする時間が多くなっていった。
三木先生は教務主任としての仕事を終えた後、俺にいろいろと教えながら一緒に仕事をしてくれる。
俺も少しずつ教務主任の仕事を手伝うようになり、慣れない仕事に悪戦苦闘していた。
そんなある日、三木先生が「不登校の児童の家に一緒に行こう」と言ってきた。
その言葉を聞いた瞬間、俺はふと小学生の頃を思い出した。
家庭訪問で先生が家に来たときの、あの何とも言えないワクワク感。子どもながらに
「先生が自分を見てくれている」という感覚が嬉しかったのだ。
そんな記憶が蘇りながら、俺は三木先生と一緒に子どもの家に向かった。
到着したのは古びた小さなアパートだった。
玄関先で声をかけるものの、なかなか返事はない。冷たい風がアパートの廊下を吹き抜ける中、
俺たちは10分ほど待っただろうか?
ようやくドアがゆっくりと開き、そこに現れたのは、洗濯していない服を着た痩せ細った少年だった。
髪はぼさぼさで、目は眠たげ。それでも素直そうな表情が印象的だった。
家の中からは何の物音もせず、両親の姿は見えない。
三木先生は持参していた学校の給食のパンを子どもに手渡した。彼は無言のままそれを
受け取ると、再び奥へと戻っていった。
その姿を見て、悲しくなった。
後日、三木先生ともう一度その子どもの家を訪れた。
今度は彼を学校に連れて行くためだった。道中、俺はどうしても気になり、
三木先生に児童について尋ねた。
その答えを聞いた瞬間、思わず息を呑んだ。
「あの子、母親はいないんだ。
母親は何年か前に家を出て、父親が面倒を見ていたけど、病気をしていて・・それ以来、彼は学校に来ないんだ。」
信じられない思いだった。小学生が一人、孤独でいる。
昔の自分を思い出した。ただ、俺には、忙しくていない事もあったが父がおり、近所の人にも助けられた。
それが彼にはないというのだろうか。
学校に到着すると、クラスメイトたちが驚きながらも彼を温かく迎え入れた。
その日、教室の片隅で静かに座っている彼の姿を見ながら、俺は思った。
俺たちができることは、
彼が孤独だと感じないように、ここが「自分の居場所」だと思ってもらえるようにすることだと。
夜、俺は一人でノートに彼のことを書き留めた。「あの子が少しでも笑えるように、俺に何ができるだろう?」
学校職員としての役割を初めて深く実感した瞬間だった。