【スグルのリアル体験 19 】〜 仕事の誇り

夏休みの静かな校内で、俺は先生たちとワックス作業を進めていた。

用務員として、この学校を清潔に保つこと、それが俺の仕事だ。

 

子どもたちが安心して過ごせる環境を作る。それが俺にとっての誇りでもある。

ワックス作業は、廊下や特別教室、職員室を終えて、ついに校長室の番になった。

そのとき、ある先生が放った言葉が空気を変えた。

 

「校長室は作業したくないんだよ…勝手にワックスの範囲を決めないでくれ!」

 

その言葉に一瞬手が止まった。他の先生たちもぎこちない沈黙を守っていた。

だが、俺は作業を再開した。この仕事に余計な感情を持ち込むのは違う。それが俺の考えだった。

 

心の中で自分に言い聞かせた。

「子どもを教育する環境の中で、先生同士の差別があってはいけないし、

会議での対立をこの場に持ち込むのもおかしい」

 

確固たる決意を胸に俺はモップを動かした。

床が次第に輝きを取り戻していくのを見て、どこか気持ちが落ち着いていくのを感じた。

この校長室も、子供たちにとって大切な場所。仕事の本質を見失うわけにはいかない。

 

作業が終わる頃には、日も暮れかけ、外からは蝉の声が響いていた。

俺の心の中にはわずかな達成感があった。

「これで、また始業式から子供たちが気持ちよく過ごせる」そう思った。

 

けれど、新学期が始まると、管理職と一部の先生たちの対立はますます激化していった。

 

会議の場では、意見がぶつかり合い、時には感情的な言葉が飛び交うこともあった。

その度に、校内の空気は重く、どこかぎこちないものになっていった。

 

そんな中、校長先生が俺を校長室に呼び出した。

「スグル先生、どう思いますか?」

突然の問いに、俺は少し考えてから答えた。

「正直に言いますと、どちらの立場にも完全には寄り添えません。

ただ、子どもたちのために何が一番いいのか、それだけを考えたいと思っています。」

 

校長先生はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。その目には疲れと迷いが見えた。

俺は、この学校に来てから自分の役割以上のことに巻き込まれてきた。

 

それでも、用務員として、そして一人の大人として、

子どもたちにとっての「安心できる場所」を守りたいという思いだけは揺るがなかった。

 

ある日のこと。登校してきた子どもたちが廊下を走り抜ける中、一人の女の子が俺に言った。

「スグル先生、いつもありがとう!床ピカピカで気持ちいい!」

その言葉に心が温かくなった。この小さな声が、俺にとって何よりの励ましだ。

 

どれだけ先生たち同士が対立していても、この子たちが元気で笑顔なら、それが俺の原動力になる。

夏休みも終わり、新学期が始まる。先生たちの間の対立はまだ続いているが、

俺は黙々と自分の仕事をこなしている。廊下を掃除していると、教室から聞こえる笑い声や元気な声。

それだけで、この学校の未来に希望を持つことができる。

 

俺にできることは小さいかもしれない。

それでも、この学校の一員として、この場所が子どもたちにとって「安心」と「希望」を与える場であるよう努力し続けたい。

「俺はここにいるんだ。子どもたちのために、今日も俺の仕事を全力でやろう」

改めてそう 決意した。