【スグルのリアル体験 29 】〜 強さの裏にある孤独

放課後、俺が用務員室の前の廊下で椅子の修理をしていると、りょう君がもう一人の生徒を連れてやって来た。

その生徒は背が高く、がっしりとした体格、髪はオールバックで、強面の顔。りょう君の先輩、3年生だ。

 

りょう君が小声で言った。「先生、この人、この学校の〝ボス〟っすよ。」

〝ボス〟——つまり、この学校の生徒たちが恐れる存在。いわゆる「バンを張っている」やつだ。

 

俺はちらりと彼を見て、強面の奥にある優しさを感じた。話し方は落ち着いていて、目にはどこか強い光が宿っている。

きっと彼も、本当は「ボス」なんて柄じゃないのかもしれない。

でも周りの期待に応えようと、無理をしているのが見て取れた。

「スグル先生、明日も放課後来ていい?」

〝ボス〟の突然の申し出に、俺は少し驚きつつも、「もちろん、歓迎だよ」と笑って答えた。

 

次の日、俺は校長先生と生徒指導の先生に、この2人のことを報告した。

生徒指導の先生は苦笑しながら、「あの2人か……」と呟いた。

先生たちも彼らのことをよく把握していたが、なかなか手が届かない存在だったらしい。

 

「でも、本当はキツいだろうな」と俺は思った。

周囲の期待に応えなきゃいけない〝ボス〟と、そんな先輩に懸命についていこうとする、りょう君。

俺もかつて、そんな風に〝見られる存在〟を演じていたから、彼らの苦しさがよくわかった。

俺は中学時代、先生たちに〝マーク〟されていた。

 

クラスメイトから勝手に作られる「ヤンチャな奴」というイメージ。

気づけば俺自身もそのイメージを壊さないように振る舞うようになり、気づいたら孤立していた。

 

無理に強く見せることで、仲間を引き寄せようと必死だった——でも、本当の仲間なんて、そう簡単にできるわけじゃない。

そんなことを思い出していると、放課後になり、約束通り〝りょう君〟と〝ボス〟がやって来た。

「先生、今日も手伝うわ。」

〝ボス〟は、まるで当たり前のようにそう言った。俺は彼の目を見て、うなずいた。

作業をしながら、りょう君がふと俺に聞いた。

「先生さ、昔ヤンチャだったんだよね?」

俺は一瞬手を止め、笑いながら「まぁな」と答えた。

 

〝ボス〟がちらっと俺を見て、「先生も色々あったんすか?」と、意外そうな表情を浮かべる。

「お前らと同じさ。俺も昔、周りに強がってたけど、実は寂しかったよ。」

俺の言葉に、2人とも一瞬動きを止めた。

「強がるのって、けっこう疲れるんだよな。」

その言葉に、〝ボス〟が小さく頷いた。そして、ポツリとつぶやく。

「…わかるかも。」

「だろ? でもな、お前には仲間がいるじゃないか。りょう君も、ちゃんと先輩のこと見てるぞ。」

りょう君は「俺、先輩についていきますから!」と、少し照れくさそうに笑った。

〝ボス〟は恥ずかしそうに「バカ、お前うるせぇよ」と軽く肩を小突いた。でも、その顔はどこか安心したように見えた。

 

俺はその様子を見ながら、胸が熱くなった。

きっと彼らも、本当は誰かに認められたかったんだ。

学校の中では〝ボス〟として見られているけれど、俺の前では、ただの「生徒」として、ありのままでいられる。

「お前ら、こうやって手伝いに来るのも悪くねぇだろ?」

そう言うと、〝ボス〟は「まぁ、たまにはな」と照れながら答えた。

次の日の朝、正門でいつものように挨拶をしていると、遠くから〝ボス〟と〝りょう君〟が歩いてくるのが見えた。

俺の前を通るとき、〝ボス〟は軽く目を合わせて「おはようございます」と小さく呟いた。

その瞬間、俺は思わず「おう!おはよう!」と少し大きな声で返した。

周りの生徒たちが驚いた顔をしていたけれど、俺にとってはそれが何より嬉しかった。

彼らにとって、ここが少しずつ〝居場所〟になっているのかもしれない。

彼らがこれからどうなるかはわからない。でも、

今この瞬間、彼らがほんの少しでも素の自分でいられる場所を作れたなら、それでいい。

俺は、そんな小さな変化を見守りながら、彼らの後ろ姿を見つめていた。