【スグルのリアル体験 31】〜 壊れた心の修理

俺は、朝早くから校舎内を巡回していた。すると、3階の廊下のガラスが粉々に割れ、掃除箱のドアが無惨に壊されているのを見つけた。

「またか…」 

深いため息をつきながら、俺はすぐに〝ボス〟を呼び出した。

〝ボス〟はこの学校でリーダー的存在だ。

 

やんちゃな連中の中心にいて、時には問題を起こすこともあるが、根は悪い奴じゃない。

俺は彼を信じている。だから、こういう時はまず彼に話をする。

「今朝な、3階の廊下のガラスと掃除箱のドアが壊されてたんだよ。

校舎の物はみんなの大切な物だ。お前たちの親たちが一生懸命働いて、税金で買ってくれてるんだぞ。」

 

〝ボス〟は黙って俺の話を聞いていた。俺は少し間を置いてから、静かに続けた。

「でもな、一番心配なのは壊した本人の怪我だ。ガラスの破片で動脈を切ったら命に関わる。体は何よりも大事なんだよ。」

すると〝ボス〟は意外なことを口にした。

「自分が犯人を探すよ…心当たりがあるから。」

その言葉を聞いた瞬間、俺はなんとなく察しがついた。〝ボス〟が心当たりがあるというなら、あいつしかいない。

「任せたよ。よろしく頼む。」

そう言って、俺は本業の修理に取り掛かった。

 

まず、割れたガラスの破片を慎重に片付ける。破片の一つ一つを確認しながら、周囲の安全を確保する。

作業中、指先が小さく切れてしまったが、そんなこと気にしている暇はない。

新しいガラスを寸法通りに切り出し、ぴったりと枠にはめ込むと、まるで何事もなかったかのように元通りになった。

 

次に、壊れた掃除箱のドアを外し、用務員室へ運ぶ。破損部分をすべて取り除き、新しいベニヤ板を寸法通りに切り出して貼り付ける。

最後に塗装をして仕上げる作業だ!

作業を進めていると〝ボス〟が一人を連れてやって来た。

案の定、〝りょう君〟だった。彼は少しうつむいて、目を合わせようとしない。

〝ボス〟が口を開いた。

「…こいつがやったって、自分で言ったよ。」

 

俺は〝りょう君〟の顔をじっと見た。怒るつもりはなかった。

ただ、彼の本当の気持ちを知りたかった。

「怪我はしてないか?」

彼は小さく首を横に振った。「ちょっと指を切っただけ…」と、申し訳なさそうに答えた。

俺はふっと息をつき、彼の肩を軽く叩いた。

「壊したことはよくない。だけど、正直に言いに来たのは偉いよ。」

彼は黙ったまま、うつむいたままだった。

 

「壊れた物は俺が直せる。でもな、大事なのは、お前の気持ちだ。これからどうするかが一番大切なんだよ。」

〝りょう君〟は唇を噛みしめ、少し目を潤ませていた。

すると、〝ボス〟が言った。

「罰として、明日からスグル先生の手伝いをさせてください。修理とか、色々教えてもらえませんか?」

俺は少し驚いたが、笑って頷いた。

「それなら、しっかり頼むぞ。次はお前の手で何かを壊すんじゃなく、直す側に回るんだ。」

〝りょう君〟は涙をこらえながら、小さく「…うん」と頷いた。

 

俺は修理道具を片付けながら、彼に向かって言った。

「さて、明日は一緒に壊れたドアの修理からだな。」