【スグルのリアル体験 32】〜 過ちから成長するもの

俺たちは校長先生と生徒指導の先生の前に座り、静かな空気の中で“りょう君ガラスと掃除用具入れを壊した理由を説明した。 

「それで…どうしてこんなことをしたの?」と校長先生が静かに尋ねる。

 

りょう君はうつむいたまま、ポツリと口を開いた。

「…野球部の先輩が、後輩を殴ってるのを見たんだ!それで、顧問の先生に言ったんだけど……」

そこまで話すと、彼の拳がギュッと握られた。

 

「先生は…『殴られた方が悪い』って。全然聞いてくれなくて…悔しくて、どうしていいかわからなくなって……」

その言葉に、校長先生も生徒指導の先生も顔を曇らせた。

 

俺は改めて彼の行動の理由を考えていた。彼の正義感は本物だった。

普通なら見て見ぬふりをしてしまうかもしれない場面で、彼は勇気を出して行動した。

 

しかし、それを否定されたことで、彼の怒りと無力感は限界に達し、壊すことでしか表現できなかったのだろう。

俺は心の中で思った。

(もし別の生徒が言っていたら、顧問の先生は同じ反応をしたのか?りょう君だから、真剣に受け止めなかったんじゃないのか?)

校長先生は深くため息をつき、「大切なことを伝えてくのに、辛い思いをさせてしまったわね」と優しく言った。

 

「物を壊したことはいけないことだけど、その気持ちを無視してはいけない。」

校長先生の目が真剣にりょう君を見つめる。

生徒指導の先生も、静かに頷いた。「この件はしっかり調査するよ。君が勇気を出してくれたこと、無駄にはしない。」

りょう君は少しほっとしたような表情を見せた。

 

俺はその場で「さ、掃除用具入れのドア修理の仕上げ、やるか。」と声をかけた。

彼は少し驚いた顔をしたが、頷いて一緒に用務員室へ向かった。

 

塗装の準備を整え、りょう君に筆を手渡す。

「この塗料を、こうやって…丁寧にな。」俺がやってみせると、彼も静かに筆を動かし始めた。

「……こう?」と恐る恐る聞いてくる彼に、「そうだ。慎重にな。」と俺は励ます。

彼は無心になって塗り続けた。俺はふと、彼の真剣な横顔を見て思った。

(こいつ、表現は不器用だけど、真っ直ぐだ。)

黙々と作業を続け、やがて掃除用具入れは新品のように見違えた。

 

塗装が乾くのを待っていると、校長先生が再び声をかけてきた。

「スグル先生、落ち着いたら校長室へ来てください。」

その言葉に、俺の心臓がバクバクと音を立てた。

「な、なんでしょう…?」

校長先生はにこりと笑ったが、詳細は話さずに去っていった。

 

俺は、掃除用具入れを見ながら「何なのかなぁ…」と呟いた。心臓の鼓動は収まるどころか、どんどん早くなっていく。

翌日、俺は意を決して校長室へ向かった。

そして、そこで思いもよらない話が待っていたのだった