【スグルのリアル体験 41】〜 中村先生の葛藤と、新たな一歩
- 2025/06/19

中村先生の葛藤と、新たな一歩
彼らの良いところを引き出すには、時間の許す限り関わるしかない。
朝はまず〝あいさつ運動〟を一緒にし、夜は食事をしながら話をして打ち解けようと考えた。
まず3人をまとめて誘い、4人で食事。そして後日、1人ずつ個別に誘って話をする。
そうして、ある程度3人と打ち解けることができた。
地域の人たちも俺を信頼してくれている。
だからこそ、彼らを地域の人たちと関わらせ、自信をつけさせたいと思った。
そんなとき、絶好の〝チャンス〟が訪れた。
翌月、お祭りの準備が、放課後にこの中学校で行われるのだ。
この学校では、地域の〝お祭り〟に、生徒の7割が参加する。
そのため、校舎内で地域の人・保護者・生徒・学校職員が一緒になって準備を進める。
授業が終わり、参加しない生徒が下校したあと、俺たちは地域の人・保護者・生徒と合流した。
〝このタイミングだ〟
俺は講師の3人に声をかけた。「さあ、一緒にやろう!」
塚原先生と奥野先生は、すぐに合流した。だが——
中村先生が、
出てこない……。
職員室を振り返ると、後ろの方に中村先生の姿が見えた。
俺は迷わず彼のもとへ行き、声をかけた。
「中村先生、一緒に行こう」
しかし彼は動かない。
「僕はここで見ています」
やはり、無理か……。
彼は大学院を出たあと、アルバイトを経験したが、まだ社会の荒波を経験していないようだった。
それでも、いまが滅多にない〝チャンス〟だ。
俺はもう一度、しつこく誘った。
すると、彼は突然、声を荒げた。
「スグル先生の思い通りにはなりません!」
俺は驚いたが、彼が出てこない理由は分かっていた。
俺もこの学校に赴任したとき、地域の人や保護者、生徒たちの独特な雰囲気に圧倒された。
中村先生も、同じように戸惑っているのだろう。
祭りの準備が終わったあと、俺は職員室に残っていた中村先生のもとへ行き、静かに座った。
「中村先生、なぜ教員になろうと思ったの?」
彼は少し考えたあと、答えた。「僕は、教える生徒の成長が見たいからです」
俺はうなずき、ゆっくりと言葉を返した。
「素晴らしいね。でも成長するのは生徒だけじゃない。教える側も一緒に困難や壁を乗り越えて成長する。
だからこそ、喜びや達成感があるんだよ」
彼は黙って聞いていた。
「中村先生、もし良かったら……朝7時30分から、地域のゴミを拾うボランティアをしている。参加してみないか?」
俺は彼の表情をじっと見つめた。
果たして、中村先生は一歩踏み出すのか——。