【スグルのリアル体験 45】〜 悪魔のささやき 

「鬼になった俺は〝擦りむいた脚を引きずりながら〟走る」 

 

そのときだった。

 

心の中で悪魔がささやいた。

――「1番脚が遅く、弱そうな奴を狙うのだ!スグル」

12年間、生徒たちのために正義を貫いてきた。

善良で、公正な教師であろうと努力してきた。

 

だが、これは鬼ごっこだ。遊びなのだ。

俺の心の悪魔が〝ケラケラ〟と笑い、擦りむいた脚も軽やかに動き出す。

そして、ターゲットを定めた。

 

村山君。

小柄で華奢で、足も遅い。

俺が鬼になった今、最も捕まえやすい存在。

だが、俺の脚も負傷していて、思うように走れない。

そこで、再び悪魔がささやく。

 

――「お前の作業室に鍵があるではないか!」

俺は用務員室を仕事場として校庭の隅に持っている。

 

その存在が、今になって都合よく思えてくる。

俺はジワジワと村山君を作業室の近くへと誘い出した。

「村山君、ごめんよ。これは君に社会の厳しさを学んでもらうためなんだ……」

そう心の中で言い訳をしながら、俺は無表情で〝タッチ〟。

 

そして――

すかさず作業室へ逃げ込み、鍵をかけた。

「先生!開けてください!」

ドアを〝ガチャガチャ〟と揺らす音がする。

 

しかし、開くはずがない。

 

村山君はしばらく粘ったが、やがて諦めて去っていった。

俺は、何とも言えない解放感に包まれていた。

 

「なんだ、この解放感は……!」

 

今までの人生で感じたことのない、背徳感と達成感が入り混じった妙な感情。

それと同時に、鬼ごっこが持つ“人間の本性を暴く力”の深さを知った気がした。

 

番長の優しさ。

彼は俺を“おみそ”扱いし、鬼にしなかった。

俺のズルさ。

 

最弱の者を狙い、挙げ句の果てに鍵をかけて逃げた。

そして、ゲームが終わると、俺たちは**「反省会」**を開いた。

「大人が鬼ごっこをするとどうなるのか?」

 

・最初は恥ずかしかったが、やっていると真剣になった

・童心にかえった

・時間が経つのがあっという間だった

・人間性がもろに出る

 

「……人間性でいうと、俺は最悪である。」

そう結論付けた。

 

悪魔のささやきに負け、最も弱い者を追い詰め、

しまいには自分の職務を利用して鍵をかけた。

こんなことをしてしまう自分が情けない。

 

だが、それ以上に、この40分間、みんなが全力で走り、はしゃいだことが大切だった。

「スグル先生、勉強になりました!楽しかったです!」

中村先生が俺に言った。

俺は思わず笑った。 

 

鬼ごっこという“ただの遊び”が、先生と生徒の垣根をなくし、

本気でぶつかり合う貴重な時間になった。

俺はまだまだ未熟だ。

 

でも、こういう時間を積み重ねながら、

生徒たちと一緒に、大人として成長していきたい。