【スグルのリアル体験 48】 〜キラリと光る将来のために 〜  3月、卒業式

この時期の学校は、何が起きるかわからない。

過去には、チャラチャラした格好の友達が大きな花束を持って押しかけたり。

不審者対策で見回ったら、タバコやライターが出てきたり。

「今年は何もありませんように」ーーそんなふうに願っていた。

 

だが、甘かった。

 

「スグル先生!スグル先生!」

生徒指導の先生が飛び込んできた。

俺はすぐ、生徒指導室へ向かった。そこには、頭を真っ赤に染めた卒業生がいた。

先生2人に囲まれ、文句を言っている。赤く染めた髪では、卒業式に出られない。

 

卒業式は、間もなくはじまる。

 

俺は彼の後ろに回り、ギュッと両腕を巻き込んで抱きしめた。動けないように。

副担任に目配せして、スプレーで髪を黒くしてもらう。

彼は他の先生には暴言を吐いていたが、不思議と俺には抵抗しなかった。

…理由はわかっていた。

 

彼は、過酷な家庭で育った子だった。人を信用していない。

 

でも以前、一度だけ2人で話した時、彼はこう言った。

「俺の居場所なんて、ないっす」

俺はそれ以来、彼に会えば必ず声をかけていた。

「おはよう」「元気か?」

たとえ返事がなくても、いい。

 

そんな彼が今、こうして卒業式に出ようとしている。それだけでもすごいことだ。

 

髪を黒く染め終わった彼に、俺はそっと言った。

 

「卒業、おめでとう」

 

彼は無言で会釈し、式場へと向かった。

ーーー

学校は、毎年生徒を送り出す。だが、生徒にとっては中学の卒業式は**“一生に一度”**。

この日が、将来ふと振り返ったとき、「あの日、俺も卒業できた」

そう胸を張れる思い出になってほしい。

 

そんな願いでいっぱいだった。

ーーー

式が無事に終わった。

生徒たちが次々に帰っていく中、ふと背後から声が聞こえた。

「スグル先生……

振り向くと、あの彼が立っていた。

頭はまだ少し黒スプレーがムラになっている。でも、その目はまっすぐだった

 

「スグル先生……ありがとう」

彼はそう言って、軽く頭下げた。俺は笑って、肩をポンと叩いた。

「おう、またどこかで会おうな」

…それしか言えなかった。

 

でも心の中では、思い切り泣いていた。彼は中学校を巣立って行った

卒業式。

たかが行事じゃない。生徒一人ひとりの、“次への一歩”。

その瞬間に少しでも寄り添えるこの仕事をしていて、本当に良かったと思う。

ーーー

また、誰かの“キラリと光る将来”のために、俺は学校に立とうと