【スグルのリアル体験 48】 〜キラリと光る将来のために 〜 3月、卒業式
- 2025/08/07

この時期の学校は、何が起きるかわからない。
過去には、チャラチャラした格好の友達が大きな花束を持って押しかけたり。
不審者対策で見回ったら、タバコやライターが出てきたり。
「今年は何もありませんように」ーーそんなふうに願っていた。
だが、甘かった。
「スグル先生!スグル先生!」
生徒指導の先生が飛び込んできた。
俺はすぐ、生徒指導室へ向かった。そこには、頭を真っ赤に染めた卒業生がいた。
先生2人に囲まれ、文句を言っている。赤く染めた髪では、卒業式に出られない。
卒業式は、間もなくはじまる。
俺は彼の後ろに回り、ギュッと両腕を巻き込んで抱きしめた。動けないように。
副担任に目配せして、スプレーで髪を黒くしてもらう。
彼は他の先生には暴言を吐いていたが、不思議と俺には抵抗しなかった。
…理由はわかっていた。
彼は、過酷な家庭で育った子だった。人を信用していない。
でも以前、一度だけ2人で話した時、彼はこう言った。
「俺の居場所なんて、ないっす」
俺はそれ以来、彼に会えば必ず声をかけていた。
「おはよう」「元気か?」
たとえ返事がなくても、いい。
そんな彼が今、こうして卒業式に出ようとしている。それだけでもすごいことだ。
髪を黒く染め終わった彼に、俺はそっと言った。
「卒業、おめでとう」
彼は無言で会釈し、式場へと向かった。
ーーー
学校は、毎年生徒を送り出す。だが、生徒にとっては中学の卒業式は**“一生に一度”**。
この日が、将来ふと振り返ったとき、「あの日、俺も卒業できた」
そう胸を張れる思い出になってほしい。
そんな願いでいっぱいだった。
ーーー
式が無事に終わった。
生徒たちが次々に帰っていく中、ふと背後から声が聞こえた。
「スグル先生……
振り向くと、あの彼が立っていた。
頭はまだ少し黒スプレーがムラになっている。でも、その目はまっすぐだった
「スグル先生……ありがとう」
彼はそう言って、軽く頭下げた。俺は笑って、肩をポンと叩いた。
「おう、またどこかで会おうな」
…それしか言えなかった。
でも心の中では、思い切り泣いていた。彼は中学校を巣立って行った
卒業式。
たかが行事じゃない。生徒一人ひとりの、“次への一歩”。
その瞬間に少しでも寄り添えるこの仕事をしていて、本当に良かったと思う。
ーーー