【スグルのリアル体験53】〜けんじ君の自立を支える〜
- 2025/09/11

その理由は―
けんじ君の家は、母子家庭だった。
お母さんは重度の〝うつ病〟を患っており、
家の中は何も手がつけられない状態。
週に一度、ヘルパーさんが来てくれるというが、それ以外はすべてけんじ君の肩にかかっていた。
担任の先生からは、
「けんじ君はとても賢い子ですよ」と聞いていた。
実際、会って話すと彼の目はどこか冷静で、心の奥で何かをずっと見つめているような深さがあった。
彼の状況を聞いたとき、
まるで鏡をのぞき込んだような気がした。
――それは、かつての自分と重なったからだ。
私は小学校1年生の夏、母を白血病で亡くした。
父と2人暮らしになったが、父は深い悲しみを背負いきれず、ギャンブルと酒に溺れていった。
ほとんど家におらず、私はいつも“ひとりぼっち”だった。
けれど、不思議と父を“嫌い”にはなれなかった。
それどころか、私は父を“尊敬”していた。
一所懸命に、男手ひとつで自分を育ててくれていると、子どもながらに理解していたのだろう。
電気も水道も止められた夜、
マッチを擦ってローソクを灯し、
晩ごはんは2人で“ポテトチップ”と“コーラ”だけ。
それでも私は、心のどこかで笑っていた。
悲壮感などなかった。
むしろ、あの夜は小さなキャンプのようだった。
だから俺は、胸に誓ったのだ。
「大人になったら、絶対に父を楽にさせてやる」と。
――ちょうど、小学5年生のころだった。
だから今、けんじ君に何が必要かは、痛いほど分かった。
“可哀想だから守る”ではない。
“放っておく”でもない。
彼には、自分の力で立つための“支え”が必要なのだ。
手を貸すのではなく、“寄り添う”こと。
そうして自分で歩けるように、そっと背中を押してやること。
そう思っていたその日――
お昼休み、けんじ君がランドセルを背負って、
〝用務員室〟にやって来た。
少し不安そうな目で、でも確かに、自分の意志で立っていた。
その姿を見た瞬間、私は確信した。
この子は、変われる。