【スグルのリアル体験59】 〜 崩れたプライド 〜

「その作戦、決行しましょう」

俺は校長室で、声を上げた!

名付けて──

ドキッ!ハッと作戦。

彼は今年の春、新規採用でやってきた若手の先生。

だが、現場ではすでに児童たちの信頼を失い、保護者からも不安の声が上がっていた。

 

問題は彼が“気づいていない”こと。そして、助言すら跳ね返してしまう“プライド”だった。

ちょうどそのクラスから、営繕依頼が入っていた。

 

「掲示板の取替え」──これを作戦の糸口にする。

 

翌日、俺は彼の教室へ向かった。

「先生、明日の放課後に作業に入ります。3つお願いがあります。

① 古い掲示板を拭くこと

② 取付位置に印をつけること

③ 近くの机と椅子を避けておくこと」

彼は笑顔で「はい!」と答えた。

 

そして、約束の放課後。

教室に入ると──やはり、③だけができていなかった。

 

彼の“苦手な部分”を、俺は見逃さなかった。

準備が整わぬ中、俺は脚立に登り、コンクリートの壁にドリルで穴を開け始めた。

やがて、廊下からスタスタと歩く足音が近づいてくる。

 

ガラッ。

「スグル先生、ありがとうございます!」

彼の声に合わせて、俺は脚立を降り、彼の目の前に立った。

 

そして──

作戦、決行。

「先生!約束を破ったじゃないか!」

「君は今、俺の一番大切な時間を奪ったんだ!」

少し大げさに、でも本気で叱った。

 

彼は「すみません、すみません」と頭を下げた。

「君は、このクラスの38人の命を預かってるんだ。保護者は、君を信じて子どもを送り出してるんだよ」

その言葉に、彼の目が潤みはじめた。

 

彼が黙ったままの時間が続いた。

 

それを、俺は黙って見守った。

そして、2人きりで静かに話をした。

 

放課後の夕焼けが、教室の窓から差し込む。

彼は語った。

 

小学生時代、憧れの先生がいたこと。

間違いには叱り、正しいことには一緒に喜んでくれたこと。

 

自分もそんな先生になりたいと、努力を重ねてきた日々。

 

高校では陸上部のリーダー、大学では剣道部の主将を務め、ストレートで教員採用試験に合格。

「やっと夢が叶った」──そう思ったのも束の間。

現実は、自分の想像とはまるで違っていた。

 

「なんでうまくいかないんだ…」

「俺は悪くない。…はずだ」

そう思い込むうちに、“プライド”が肥大していた。

 

俺は静かに告げた。

「君のその“プライド”が、邪魔してるんだよ」

彼はハッとしたように目を見開き、そして、こらえきれず泣き始めた。

 

「でもな、よかったよ。君に忠告してくれる仲間が、今日できたじゃないか」

彼は涙を流しながら、うなずいた。

 

「スグル先生、ありがとうございます。

僕、このクラスのために、もう一度向き合ってみます」

その時、教室は月明かりに照らされていた。

 

さぁ──次は、「ハッと」作戦だ。