【スグルのリアル体験59】 〜 崩れたプライド 〜
- 2025/10/23

「その作戦、決行しましょう」
俺は校長室で、声を上げた!
名付けて──
ドキッ!ハッと作戦。
彼は今年の春、新規採用でやってきた若手の先生。
だが、現場ではすでに児童たちの信頼を失い、保護者からも不安の声が上がっていた。
問題は彼が“気づいていない”こと。そして、助言すら跳ね返してしまう“プライド”だった。
ちょうどそのクラスから、営繕依頼が入っていた。
「掲示板の取替え」──これを作戦の糸口にする。
翌日、俺は彼の教室へ向かった。
「先生、明日の放課後に作業に入ります。3つお願いがあります。
① 古い掲示板を拭くこと
② 取付位置に印をつけること
③ 近くの机と椅子を避けておくこと」
彼は笑顔で「はい!」と答えた。
そして、約束の放課後。
教室に入ると──やはり、③だけができていなかった。
彼の“苦手な部分”を、俺は見逃さなかった。
準備が整わぬ中、俺は脚立に登り、コンクリートの壁にドリルで穴を開け始めた。
やがて、廊下からスタスタと歩く足音が近づいてくる。
ガラッ。
「スグル先生、ありがとうございます!」
彼の声に合わせて、俺は脚立を降り、彼の目の前に立った。
そして──
作戦、決行。
「先生!約束を破ったじゃないか!」
「君は今、俺の一番大切な時間を奪ったんだ!」
少し大げさに、でも本気で叱った。
彼は「すみません、すみません」と頭を下げた。
「君は、このクラスの38人の命を預かってるんだ。保護者は、君を信じて子どもを送り出してるんだよ」
その言葉に、彼の目が潤みはじめた。
彼が黙ったままの時間が続いた。
それを、俺は黙って見守った。
そして、2人きりで静かに話をした。
放課後の夕焼けが、教室の窓から差し込む。
彼は語った。
小学生時代、憧れの先生がいたこと。
間違いには叱り、正しいことには一緒に喜んでくれたこと。
自分もそんな先生になりたいと、努力を重ねてきた日々。
高校では陸上部のリーダー、大学では剣道部の主将を務め、ストレートで教員採用試験に合格。
「やっと夢が叶った」──そう思ったのも束の間。
現実は、自分の想像とはまるで違っていた。
「なんでうまくいかないんだ…」
「俺は悪くない。…はずだ」
そう思い込むうちに、“プライド”が肥大していた。
俺は静かに告げた。
「君のその“プライド”が、邪魔してるんだよ」
彼はハッとしたように目を見開き、そして、こらえきれず泣き始めた。
「でもな、よかったよ。君に忠告してくれる仲間が、今日できたじゃないか」
彼は涙を流しながら、うなずいた。
「スグル先生、ありがとうございます。
僕、このクラスのために、もう一度向き合ってみます」
その時、教室は月明かりに照らされていた。
さぁ──次は、「ハッと」作戦だ。

