【スグルのリアル体験60 】 〜 あの日の志を、もう一度 〜

「さぁ!つぎは “ハット”作戦だ!」

 

彼が教員を志したのは、小学校のころ。

熱心で、いつも一人ひとりに向き合ってくれた担任の先生に、心を動かされたという。

 

──あの頃の気持ちを、もう一度思い出してほしい。

そう思った俺は、かつて“荒れた4人組”と対峙し、共に教室を立て直した南先生に声をかけた。

 

「南先生、頼む。あの新任の先生に、うまく“気づき”を与えてやってくれ」

「任せてください!」と笑う南先生

 

もし、彼が自分のプライドを手放し、児童と向き合いなおすことができたら──

きっと、憧れた“あの先生”に近づける。

 

そんな未来を想像するだけで、俺は胸が熱くなった。

 

夕方、用務員室の片隅で壊れた木工棚の修理をしていたときだった。

「スグル先生、今日の夜、お時間ありますか?」

声をかけてきたのは、南先生だった。

 

「いいよ。どこ行く?」

「駅前の“みよし食堂”で」

思わず笑みがこぼれた。

 

定時を過ぎて、俺は慌てて作業服を脱ぎ、学校を飛び出した。

駅までの道を小走りに駆け抜け、ギリギリ電車に飛び乗る。

 

“みよし食堂”に着いたのは19時ちょうど。

引き戸を開けると、そこには南先生と、あの若い新任教師がいた。

 

「スグル先生、お疲れさまです」

「おっ、2人ともいい顔してるな」

席に着くと、俺は何も聞かなかった。

 

すでに南先生が、彼に必要な言葉をかけてくれたことは、二人の空気でわかったからだ。

だからこそ、俺はただ、仕事とは関係ない話をして笑い合った。

 

その夜、3人でたっぷり食べて、たっぷり飲んだ。

少しふらつきながらも、3人で肩を組み、未来を語り合った。

 

「俺たちは、まだまだここからだよな」

 

そう言った南先生の言葉に、新任の先生が強くうなずく。

見上げた夜空に、月がぽっかり浮かんでいた。

 

アスファルトには、3人の影が静かに揺れていた。

──頼もしく、まっすぐに。