【スグルのリアル体験63】〜 りお君との約束 〜

教室で喧嘩の絶えない児童――りお君。

カッとなると、すぐに手が出てしまう。  

 

校長先生の判断で、しばらくの間「用務員室」で過ごすことになった。

落ち着くまで、ひとり勉強をするのだ。

 

私は仕事の合間に、そっと様子を覗きこんだ。

そこには、ノートに真剣に向き合うりお君の姿があった。

 

何度も消しゴムで消しては、書き直す。

乱暴な児童という印象とは、まるで別人のように見えた。

 

チャイムが鳴り、休み時間。

私は思い切って声をかけた。

「りお君、君はすごいね。よく頑張って書いている。…でも、どうして友達と喧嘩になるんだろう?」

 

彼は即座に答えた。

 

「相手が悪口を言うから!」

「りお君は、悪口を言ったことはある?」

「ある」

「じゃあ、お互いさまだね。でも、そのあと殴るのは間違いだよ。もし殴られて怪我をしたら? 目が見えなくなったらどうする?」

その瞬間、りお君は黙り込んだ。

 

それから数日、彼は用務員室で過ごした。

強い日差しが差し込む夏の前。

二人並んで過ごす時間の中で、俺は何度も、何度も語りかけた。

 

――将来は、人を優しさで包み、頼られる大人になってほしい。

そう願いを込めて。

 

やがて一学期が終わり、終業式の日がやってきた。

俺たち職員にとっては、夏休みこそ忙しい期間。

 

営繕や研修、校舎の美観整備など山積みだ。

職員作業の案を練っていると、用務員室のドアが開いた。

 

そこに立っていたのは――りお君とお母さん。

「スグル先生、りおがお世話になりました。これを…」

差し出されたのは、プレゼント袋に包まれた一冊のノートと一本のペンだった。

 

「ありがとうございます。大切に使わせていただきます!」

りお君は恥ずかしそうに、それでもどこか誇らしげに笑っていた。

 

胸の奥に熱いものが込み上げた。

―― 真剣に向き合えば、いつかは心が通じるとそう信じている。